結論から言えば、確定拠出年金、特に企業型DCは、大企業にとっては導入しやすい一方、中小企業には「制度が複雑」「手続きが不安」「投資教育まで手が回らない」という壁がありました。しかし、この遅れは、金融教育を届けるべき大きな空白地帯でもあります。
なぜ企業型DCは中小企業に届いてこなかったのか?
企業型DCの話をしていると、このような質問を受けることがあります。
「確定拠出年金は、なぜ大企業しか採用してこなかったのですか?」
正確に言えば、企業型DCは大企業だけの制度ではありません。中小企業でも導入できますし、実際に導入している会社もあります。
ただ、現実としては、企業規模が大きい会社ほど導入が進み、中小企業ではまだ十分に普及しているとは言えません。
この差は、単に「大企業はお金があるから。マンパワーがあるから」という話だけではないように思います。制度への理解、事務手続きへの不安、社内で説明できる人材の不足、そして導入後の投資教育をどう続けるのかという問題。いくつもの壁が重なっています。
私は、この壁の向こう側にこそ、DCコンサルタントが担うべき大きな役割があると考えています。
大企業では見慣れた企業型DCも、中小企業ではまだこれから
まず、数字を確認してみます。
厚生労働省が公表している資料によると、企業型DCの加入者数は、2002年3月末時点で9万人でした。それが、2025年3月末には862万人まで増えています。企業型DCの実施事業所数も、同じく2025年3月末で58,326件まで増えています。
この数字だけ見ると、企業型DCはかなり広がってきたように見えます。
しかし、企業規模別に見ると、別の景色が見えてきます。
2023年のデータでは、企業型DCの実施割合は、従業員1,000人以上の企業で47.3%です。一方で、300〜999人では30.1%、100〜299人では16.6%、30〜99人では7.3%にとどまっています。
つまり、大企業では退職金制度や福利厚生の選択肢として浸透しつつある一方、中小企業ではまだ「これから」の制度だということです。
ここに、大きなコントラストがあります。
大企業では、企業型DCは見慣れた選択肢になりつつある。中小企業では、そもそも制度を知らない経営者もいる。知っていても、「うちには難しそうだ」と感じている担当者もいる。
この差をどう見るかです。
私は、ここに大きな可能性があると考えています。
中小企業で普及が進まない理由は、複雑さだけではない
では、なぜ中小企業では企業型DCの普及が進みにくかったのでしょうか。
まず、制度が複雑に見えることです。
企業型DCは、退職金制度であり、福利厚生制度であり、資産形成制度でもあります。税制、労使合意、規約、運営管理機関、資産管理機関、運用商品、投資教育。初めて聞く経営者や人事担当者にとっては、言葉だけで少し距離を感じる制度です。
「よさそうだけれど、難しそう」
「うちの会社で本当に運用できるのだろうか」
「導入した後、誰が従業員に説明するのだろうか」
そう感じても、不思議ではありません。
次に、事務負担の問題があります。
大企業であれば、人事部、総務部、場合によっては専門部署があったりもします。社内説明会を企画する人も、制度導入後の問い合わせを受ける体制もあります。
しかし、中小企業ではそうはいきません。社長が人事も総務も見ている会社があります。経理担当者が労務も兼ねている会社があります。給与計算、社会保険、採用対応、日々の資金繰り。その中で、企業型DCを導入し、従業員に説明し、投資教育まで継続する。
これは、簡単なことではありません。
実際、企業型DCの導入障害として、財政的負担に次いで、加入者への投資教育の負担、手続き上の負担が挙げられています。
制度そのものが悪いわけではありません。けれども、制度を受け止める現場の体制が追いついていないのです。
普及を止めているのは「伝わらなさ」ではないか?
中小企業の社長は、必ずしも「企業型DCを導入したい」と思っているわけではありません。
そもそも企業型DCを知らないこともあります。「確定拠出年金」という言葉は聞いたことがある。でも、それが会社の退職金制度や福利厚生に使えるとは知らない。そのようなケースは珍しくありません。
社長が考えているのは、もっと手前のことです。
人が採れない。若い社員が定着しない。給与を上げたいが、原資が限られている。退職金制度を作りたいが、何から始めればいいかわからない。社員にお金の教育をした方がよい気はするが、会社としてどこまで関わるべきかわからない。
こうした悩みです。
ここでいきなり、「企業型DCには税制メリットがあります」と話しても、相手の心には届きにくいかもしれません。
もちろん、制度上のメリットを説明することは大切です。ただ、その前に必要なのは、社長が抱えている課題を聞くことです。
その会社にとって、退職金制度が必要なのか。企業型DCが合うのか。iDeCo+の方が自然なのか。まずは金融教育から始めた方がよいのか。
制度を売るのではなく、会社の課題から考える。
この順番を間違えると、企業型DCは中小企業に根付きません。
退職金制度がない会社にこそ届けるべき
日本には、多くの中小企業があります。
中小企業庁の集計では、2021年6月時点の中小企業数は336.5万社です。日本企業の大半が中小企業であることは、あらためて確認しておきたい事実です。
一方で、退職金制度がない企業もあります。厚生労働省資料では、2023年時点で退職金制度がない企業の割合は全体で24.8%、従業員30〜99人規模では29.5%となっています。
この数字をどう見るかです。
「まだ制度がない会社が多い」と見ることもできます。
一方で、「これから届けるべき会社が多い」と見ることもできます。
企業型DCが普及していない中小企業は、単なる未開拓市場ではありません。従業員の老後資産形成を支える仕組みが、まだ十分に届いていない場所です。金融教育が、まだ届いていない場所です。
私は、そこを「空白地帯」と呼んでもよいのではないかと思います。
そして、金融関係者にとっては、この空白地帯はブルーオーシャンでもあります。
ただし、誤解してはいけません。
ブルーオーシャンという言葉を、単に「儲かる市場」という意味で使いたいわけではありません。
まだ支援が届いていない会社がある。まだ制度を知らない経営者がいる。まだ金融教育を受ける機会の少ない従業員がいる。そこに、専門家として関われる余地がある。
その意味でのブルーオーシャンです。
企業型DCの普及には「継続投資教育」という武器が必要
確定拠出年金は、加入者自身が運用商品を選びます。そして、その運用結果が将来の給付額に影響します。
だからこそ、投資教育が必要です。
厚生労働省も、事業主等は制度への加入時だけでなく、加入後も継続的に、加入者が資産運用について十分理解できるよう必要かつ適切な投資教育を提供する必要があると説明しています。
ここが、企業型DCの本質です。
企業型DCは、制度だけを導入しても十分ではありません。従業員が理解し、選び、見直し、自分の将来と結びつけて考えられるようになって、初めて意味を持ちます。
導入時の説明会だけでは足りません。一度資料を配っただけでは足りません。
従業員は忘れます。新入社員は毎年入ってきます。家族構成も、収入も、年齢も、投資経験も変わります。NISAを始める人もいます。iDeCoに関心を持つ人もいます。
そのたびに、企業型DCの位置づけを伝え直す必要があります。
「会社がなぜこの制度を用意しているのか」
「自分の老後資産形成の中で、企業型DCはどのような役割を持つのか」
「NISAやiDeCoとは何が違うのか」
「運用商品を選ぶとき、何を考えればよいのか」
こうした問いに、継続的に向き合う必要があります。
我々が大切にしている継続教育は、まさにこの壁を突破するための武器になると考えています。
普及の遅れは、DCコンサルタントの出番
中小企業で企業型DCが普及していない。
これは、単に制度の営業が足りないという話ではありません。金融教育が届いていないというサインでもあります。
経営者に、企業型DCという選択肢が届いていない。人事担当者に、導入後の運用イメージが届いていない。従業員に、自分の将来と制度を結びつける機会が届いていない。
だからこそ、外部から伴走できる専門家が必要になります。
経営者の悩みを聞く。制度を分かりやすく整理する。従業員に伝わる言葉に変える。導入後も、継続教育を通じて制度を風化させない。
この一連の支援があってこそ、企業型DCは中小企業に根付いていくのだと思います。
DCコンサルタントは、企業型DCを説明するだけの人ではありません。
導入前には、その会社に本当に必要な制度なのかを考える。導入時には、経営者の思いを従業員に伝わる形に整える。導入後には、継続教育を通じて制度が風化しないように伴走する。
制度の専門家として。金融教育の担い手として。そして、会社と従業員の間に立つ翻訳者として。
そこに、DCコンサルタントの役割があります。
中小企業は企業型DCのブルーオーシャン
あらためて、今回の問いに戻ります。
「確定拠出年金はなぜ大企業しか採用してこなかったのですか?」
正確には、大企業しか採用してこなかったわけではありません。ただ、大企業では導入が進みやすく、中小企業では普及が遅れてきた。その背景には、制度の複雑さ、事務負担、財政的負担、投資教育の負担、サポート不足があります。
しかし、この普及の遅れは、悲観する話だけではありません。
むしろ、これから金融教育を届ける余地があるということです。
日本には多くの中小企業があります。退職金制度がない会社もあります。企業型DCを知らない経営者もいます。制度を知っていても、導入後の教育に不安を感じて踏み出せない会社もあります。
そこに、DCコンサルタントが関わる意味があります。
中小企業にとって、企業型DCはこれからの制度です。だから、企業型DCに関わる金融関係者にとって、中小企業はブルーオーシャンです。
ただし、それは単に市場が空いているという意味ではありません。
「届けるべき金融教育がある」
「支援を待っている会社がある」
「制度を生きたものにする専門家が必要とされている」
という意味です。
企業型DCの普及=金融教育を届ける仕事
企業型DCの普及は、単なる制度導入の話ではありません。
会社が従業員の将来をどう支えるか。従業員が自分の老後資産形成をどう考えるか。そして、金融教育を誰が、どのように届けるか。
その問いと向き合う仕事です。
中小企業には、まだ企業型DCが十分に届いていません。だからこそ、そこには大きな役割があります。
制度を売る人ではなく、制度をわかりやすく届ける人。導入して終わりではなく、継続教育で伴走する人。企業の思いと従業員の将来をつなぐ人。
そのような支援に価値を感じる方にとって、DCコンサルタントという仕事は、これからますます意味を持つのではないでしょうか。

