DCプランナー2級では、確定拠出年金(DC)の仕組みだけでなく、公的年金や退職給付制度、資産運用、老後の生活設計まで学べます。
試験範囲がここまで広いのは、DCの相談が退職金や年金の話と切り離せないからです。
初めて受験し、年金・退職金の分野で苦戦した私の実感も交えて、DCコンサルタントがこれらを学ぶ意味を考えます。
今回も、制度の解説というよりは、コラムのような内容になります。
最近、DCプランナー2級を初めて受験し、何とか合格しました。
DCコンサルタントとしては早めに取得しておきたかった資格ですが、延び延びになってしまっていました。
受けてみて感じたことが、DCコンサルタントという仕事を考えるうえで大切な気づきにつながったので、今回はそのことについて書いてみたいと思います。
「DCのことはわかりました。でも……」
少し、ある相談の場面を想像してみてください。
58歳の会社員の方が、企業型DCの受け取り方について相談に来られました。
DCの資産をどう受け取ればいいのか、一時金と年金ではどう違うのか。
DCに詳しい担当者は、受け取り方の選択肢や、受給開始の時期を選べることを、丁寧に説明します。
相談者はうなずきながら聞いています。
そして説明が一段落したところで、こう続けます。
「ありがとうございます。DCのことはよくわかりました。それで、会社の退職金とはどう組み合わせればいいんでしょう。年金もいつから受け取るか決めないといけないと聞いて……。定年後も、しばらく働くつもりなんですが」
担当者は言葉に詰まります。
「退職金のことは会社に、年金のことは年金事務所に聞いてください」
そう答えると、どうなるでしょう?
恐らく、相談者は「そうですか」と頭を下げて帰っていきます。
相談に来たときと同じ不安を抱えたまま。
そして、もうその担当者に相談に来ることはないでしょう。
これは実際にあった特定の相談ではなく、場面をわかりやすくするために描いた例です。
ただ、DCの受け取りは退職金や公的年金と切り離せないので、相談がこうしてDCの外側へ広がっていくのは、ごく自然なことだと思います。
相談者が知りたかったのは、DCの受け取り方そのものではなかったのかもしれません。
知りたかったのは、
「この先、ちゃんと暮らしていけるのか」
ということだったのではないでしょうか。
試験で苦戦したのは、その「続き」の部分だった
冒頭で触れたDCプランナー2級の受験では、確定拠出年金の分野は、普段の仕事で扱っていることもあり、落ち着いて解くことができました。
一方で、公的年金や退職金に関する問題は難しく、かなり苦戦しました。
ほぼ勉強せずに臨んだ私が悪かっただけですが。
この結果を振り返って思うのは、苦戦した分野が、さきほどの場面で相談者が**「続けて」**聞いてきた内容とほとんど重なっている、ということです。
退職金とDCをどう組み合わせるか。
公的年金をいつから受け取るか。
60歳以降も働くとき、何が変わるのか。
私が試験で苦戦したのは、まさにそこでした。
DCに詳しいことと、相談者の不安に最後まで向き合えることは、同じではありません。
DCコンサルタントとして活動してきた私にとって、この試験はそのことを、知識としてではなく実感として教えてくれました。
DCプランナー2級の3分野は、相談者の不安の形を表している
DCプランナーは、日本商工会議所と金融財政事情研究会が共催する検定試験です。
2級の試験範囲は3つの分野で構成されています。
A分野「年金・退職給付制度等」は、公的年金、企業年金と個人年金、退職給付制度、中高齢期における社会保険などが対象です。
B分野「確定拠出年金制度」は、DCの仕組みや企業型年金の導入・運営、個人型年金の手続きなどを扱います。
C分野「老後資産形成マネジメント」は、金融商品の仕組みや資産運用の基礎理論、DCを含めた老後の生活設計などが問われます。
名前に「DC」とついていても、DCそのものを扱うのはB分野です。
私はこの3分野を、相談者の不安の形に重ねて見ています。
A分野は「退職金や年金はどうなるのか」という不安。
B分野は「DCはどういう仕組みなのか」という疑問。
C分野は「どう運用して、どう暮らしていけばいいのか」という迷いです。
相談者の心の中では、この3つは分かれていません。
ひとつの大きな**「老後のお金の不安」**として、同時にそこにあります。
試験がDCの外側まで問うのは、支援する側がその全体に向き合えるようにするためではないかと思います。
「今まで誰も教えてくれなかった」と言われたとき
制度の外側に目を向けることの意味を、私が実感した場面があります。
以前、大手企業にお勤めのご夫婦から相談を受けたときのことです。
お話を伺う中で、勤務先の健康保険組合の付加給付について説明し、民間の保険はそれを補う観点で考えればよいことをお伝えしました。
すると、ご夫婦から
「今まで誰も教えてくれなかった」
と感謝されました。
付加給付の有無や内容は、健康保険組合ごとに異なります。
全ての人に当てはまる話ではありません。
それでも、この一言には、相談を受ける仕事の大切な部分が表れていると感じます。
ご夫婦にとって価値があったのは、保険の商品説明よりも、自分たちがすでに持っている備えに気づけたことだったのだと思います。
目の前の商品や制度の外側まで見渡したからこそ、届けられた安心でした。
DCの相談も、同じではないでしょうか。
DCだけを見ていては気づけないことが、退職金や公的年金まで見渡したときに、はじめて見えてくることがあります。
もし、あの場面をやり直せるなら
冒頭の相談の場面に戻ってみます。
もし担当者が、退職金や公的年金の基本まで理解していたら、相談はどう変わったでしょうか。
まず、受け取り方を説明する前に、聞くことが変わるはずです。
勤務先に退職一時金や確定給付企業年金(DB)はあるのか。
あるなら、いつ、どのくらい受け取る見込みなのか。
定年後は再雇用で働く予定なのか。
公的年金の見込額は、ねんきん定期便などで確認できているか。
退職後の生活費は、毎月どのくらい必要になりそうか。
そのうえで、組み合わせを一緒に考えられます。
DCの老齢給付金は、60歳から75歳までの間で受給開始時期を選べます。
企業型DCには、厚生年金の被保険者であれば70歳未満まで加入できますが、実際に何歳まで加入できるかは会社の規約で決まります。
再雇用後も拠出を続けられるのか、運用だけを続けることになるのかで、考え方は変わります。
税金の扱いも関係します。
DCの一時金も会社の退職金も、一時金で受け取れば退職所得として扱われます。
令和7年度税制改正の大綱では、DCの一時金を先に受け取り、その後に退職金を受け取る場合の調整期間が見直されました。
2026年1月1日以後は、退職金を受け取る年の前年以前9年内にDCの一時金を受け取っていると、退職所得控除の計算で勤続期間の重複が調整されます。
受け取る順番や時期によって、手元に残るお金が変わり得るということです。
もし、あの場面をやり直せるなら
運用の話も、ここにつながります。
企業型DCを実施する事業主には、加入者への継続投資教育が努力義務として課されていますが、加入者一人一人が知りたいのは、分散投資の一般論よりも**「自分はどう運用すればいいのか」**ということです。
退職金やDBの給付がある程度見込める人と、DCが退職後の主な備えになる人とでは、同じ58歳でも、値下がりをどこまで受け止められるかの考え方が変わることがあります。
以前の記事**「企業型DCの外国株式一択は本当に正解?」**で書いたように、運用商品の選び方も、その人の全体像と切り離せません。
C分野で金融商品の知識と老後の生活設計がセットになっているのは、運用の話を暮らしの話につなげるためだと思います。
もちろん、個別の税額計算や年金の請求手続きは、税理士や社会保険労務士など専門家の確認が必要な場面もあります。
DCコンサルタントが全てを一人で判断する必要はありません。
それでも、全体像を一緒に並べ、
「ここは専門家に確認しましょう」
と道筋を示すことはできます。
同じ58歳の相談者が、今度は帰り際に、何を確認すればいいのかがわかったという表情で帰っていく。
答えを全部出せたかどうかよりも、不安の全体像を一緒に整理できたかどうか。
私は、そこに支援の価値があると考えています。
導入の場面でも同じです。
DBを実施している会社では、2024年12月から、DBの給付水準を評価した**「他制度掛金相当額」**によって企業型DCの拠出限度額が変わる仕組みになりました。
経営者から
「今の退職金制度はどうなるのか」
と聞かれたとき、退職給付制度の基本がわかっていれば、落ち着いてその問いに向き合えます。
この論点は、以前の記事**「限度額が6.2万円に上がっても、恩恵を受けられない会社がある」**でも取り上げました。
資格は、ゴールではなく地図
DCプランナーの資格を取ったからといって、すぐに相談の質が上がるわけではありません。
試験に合格することと、目の前の人の状況に合わせて考えられることは、別の力です。
制度も動き続けています。
DCプランナーの試験は、問題文に指示がない限り、その年の7月1日時点で施行されている法令が基準です。
資格の登録にも2年間の有効期間があり、継続するには更新が必要です。
一度学んだ知識で、この先もずっと足りるわけではありません。
それでも、学ぶ意味は大きいと感じています。
試験勉強をすると、自分が何をわかっていて、何がわかっていないのかがはっきりします。
私の場合、それが公的年金と退職金でした。
弱い場所がわかれば、次に歩くべき方向も見えてきます。
試験範囲に沿って学ぶメリットは、まだ出会っていない相談に備えられることでもあります。
実務では、目の前の会社や相談者に必要なことから学ぶので、知識にはどうしても偏りが生まれます。
体系的に学んでおけば、いつかその相談が来たときに
「聞いたことがある」「どこを調べればいいかわかる」
という状態でいられます。
その小さな備えが、相談者の前で言葉に詰まらないための支えになるのだと思います。
資格は、ゴールというよりも地図のようなものだと思います。
地図があれば、今いる場所と、まだ歩いていない場所がわかります。
DCコンサルタント協会が掲げる行動原則にも、**『「学び」と「実践」はセット』**という考え方があります。
試験で手にした地図を、実際の相談の中で一つずつ確かめていく。
その積み重ねが、相談者にとって頼れる支援につながっていくのだと思います。
おわりに
DCプランナー2級の試験範囲は、なぜ公的年金や退職金まで広いのか。
その答えは、相談者の**「続き」**の質問の中にあると、私は考えています。
「DCのことはわかりました。でも……」
のあとに続く言葉こそが、その人が本当に抱えている不安だからです。
私自身、今回の受験で苦手な分野がはっきりしました。
苦戦した公的年金や退職金は、これから重点的に学び直していくつもりです。
そして、早めに1級も受験したいと思います。
これからDCコンサルタントを目指す方は、最初から全部に詳しくなくても大丈夫です。
私もまだ学んでいる途中です。
大切なのは、相談者の**「続き」**の質問から目をそらさず、わからないことを学び続けることではないでしょうか。
いつか、あの58歳の相談者のような方が目の前に座ったとき。
「その続きも、一緒に考えましょう」
と言えるように。
DCプランナーの勉強は、そのための良い入り口になると感じています。

