制度改正を“提案力”に変えるということ

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マッチング拠出の制限撤廃から考える、DCコンサルタントの役割

このブログではこれまで、DCコンサルタントという仕事の価値を、単なる制度知識の多さではなく、「制度をどう現場で機能させるか」という視点から考えてきました。制度は、知っているだけでは価値になりません。必要な人に届き、その人にとって意味のある形で伝わって、はじめて力を持ちます。そういう“制度が生きる状態”をつくることに、DCコンサルタントの役割があるのではないか。私は、そう考えています。

今回は、そのことがとてもよく表れるテーマとして、「マッチング拠出の制限撤廃」を取り上げます。2025年の制度改正では、企業型DCの加入者掛金について、「事業主掛金の額を超えてはならない」という制限が撤廃され、間もなく2026年4月1日から施行されます。厚生労働省は、この見直しを、事業主掛金の額によらず、加入者がそれぞれの状況に応じて拠出限度額の枠を十分に活用し、老後の資産所得の確保を図れるようにするための改正と説明しています。

一見すると、これは「拠出できる額が増える」という制度上の話に見えるかもしれません。もちろん、それ自体は大切です。ただ、私はこの改正の本当の意味は、そこだけではないと思っています。むしろ大事なのは、同じ制度改正でも、人によって意味が違うということです。そして、その違いを読み解き、わかる言葉に変え、提案へつなげていくところに、DCコンサルタントの仕事の面白さがあるのではないでしょうか。


制度改正は、知っているだけではまだ半分

制度改正の情報は、今の時代それほど手に入りにくいものではありません。厚生労働省のページを見れば概要はわかりますし、関連資料も出ています。だからこそ、これから問われるのは「知っているかどうか」だけではなく、「どう読むか」なのだと思います。

今回の見直しも、条文の意味だけを追えばシンプルです。これまでは、加入者が自分で上乗せして拠出するマッチング拠出について、加入者掛金は事業主掛金を超えられませんでした。その制限がなくなる。文字にすると、たったそれだけです。けれど、現場で起きることは、そんなに単純ではありません。

たとえば、事業主掛金が低い会社では、これまで「もっと拠出したい」と思っても、制度上それができない加入者がいました。若手社員や勤続年数の短い社員ほど、事業主掛金が相対的に小さい設計になっていることもあります。その場合、資産形成への意欲があっても、制度の側が十分に応えられていなかったわけです。今回の見直しは、そうした“やりたいのにできなかった”部分を広げる意味を持っています。

ただし、ここで終わってしまうと、この改正は単なる「良いニュース」で終わります。DCコンサルタントに求められるのは、その先です。誰にとって、どんな意味があるのか。逆に、誰にとってはそれほど大きな変化ではないのか。何をどう説明すると、この改正が“自分ごと”として伝わるのか。そこまで考えてはじめて、制度改正は提案の入り口になります。


同じ改正でも、意味は人によって違う

制度は一つでも、その制度が持つ意味は一つではありません。ここがDCの難しさであり、同時に面白さでもあります。

若手社員にとっては、「将来のために早く積み立てたいのに、今までは制度上の壁があった」ということかもしれません。中堅社員にとっては、「教育費や住宅費とのバランスを見ながら、余力のある年だけ少し多めに積み立てたい」という話かもしれません。管理職層であれば、「税制や老後設計を踏まえて、限度額の枠をどう活かすか」がより具体的な関心になるかもしれません。

つまり、制度改正の説明を一律にしてしまうと、本当は届くはずの人に届かなくなります。

「マッチング拠出の制限が撤廃されます」

これだけでは、情報としては正しくても、意味としてはまだ届いていません。

DCコンサルタントの役割は、制度の内容をそのまま読むことではなく、相手にとっての意味に翻訳することにあります。

何が変わるのか。
どこに選択肢が生まれるのか。
何を考えるきっかけになるのか。

そうしたことを、相手の立場ごとに言い換えていく。

この力は、単に説明が上手ということではありません。制度を理解し、人を理解し、現場を理解していないとできない仕事です。だからこそ、私はここにDCコンサルタントの存在意義があると思っています。


改正を“提案”に変える視点が必要になる

今回の制限撤廃は、加入者にとっての選択肢を広げる改正です。ただ、選択肢が広がることと、適切に選べることは同じではありません。制度が広がるほど、むしろ「どう考えればよいか」を支える必要は大きくなります。

ここで大事になるのが、提案の視点です。

たとえば企業に対しては、単に「改正があるので説明しましょう」では不十分です。

どの社員層に影響が大きいのか。
制度説明の資料は今のままで足りるのか。
マッチング拠出を案内するタイミングは適切か。
人事担当者が社員から受けそうな質問は何か。

そうしたことまで見通して支援できるかどうかで、コンサルタントとしての価値は変わってきます。

加入者向けでも同じです。

「たくさん積み立てられるようになりましたよ」という伝え方だけでは、雑過ぎます。

無理のない範囲でどう考えるか。
他の資産とのバランスをどう見るか。
制度のメリットだけでなく、続けられる形をどうつくるか。

そこまで含めて支援することで、ようやく“提案”になります。

私は、ここにこの仕事の面白さがあると思っています。制度改正は、単に覚える対象ではありません。現場の課題を見つけ、提案に変え、制度をよりよく機能させるための材料です。知識そのものよりも、その知識をどう使うか。そこに仕事の差が出ます。


DCコンサルタントは、「説明する人」から「設計する人」へ

DCコンサルタントという仕事に関心を持つ方の中には、「まず制度をしっかり学ばなければ」と感じている方も多いと思います。それはもちろん大切です。ただ、制度を学ぶことはスタートであって、ゴールではありません。

本当に価値になるのは、その制度がどうすれば現場で機能するかを考えられることです。

どこで理解が止まりやすいか。
どんな説明なら伝わりやすいか。
どのタイミングなら行動につながりやすいか。

制度設計や教育、案内の流れまで含めて整えられる人は、企業にとっても加入者にとっても非常に心強い存在になります。

我々DCコンサルタント協会は、確定拠出年金と金融教育の普及・支援活動を通じて、国民の中長期的な資産形成を支援することを目的にしています。その意味で、今回のような制度改正を「広がった選択肢」として終わらせず、「どうすればその選択肢が活かされるか」という支援に変えていくことは、まさにDCコンサルタントの役割そのものだと思います。

説明する。
伝える。
案内する。

もちろん、それも大切です。

けれど、これからはもう一歩進んで、“制度が活きる形を設計する人”が必要とされるのではないでしょうか。


おわりに

マッチング拠出の制限撤廃は、制度として見れば一つの改正事項です。けれど、その中にはDCコンサルタントの仕事の本質がよく表れています。

制度改正を知ること。
その意味を読み解くこと。
相手にとっての意味に翻訳すること。
そして、現場で活かせる提案へ変えていくこと。

同じニュースを見ても、
「改正がありました」で終わる人もいれば、
「この改正で、誰にどんな支援が必要になるか」を考える人もいます。

私は、その違いこそがDCコンサルタントの価値だと思っています。

制度は、変わること自体に意味があるのではありません。
その変化が、誰かの行動や安心につながってはじめて、生きた意味を持ちます。

もしDCコンサルタントという仕事に関心があるなら、制度改正を“覚える対象”としてだけでなく、“提案を深める材料”として見てみてください。

そこから先に、この仕事の知的な面白さと、取り組む価値が見えてくるように思います。