若い社員に老後の話をしても、聞いてもらえますか?

20260722 DC

若い社員が老後や投資に無関心とは限りません。関心が会社から見えていない、あるいは今の生活と結びつかない言葉で説明されている可能性があります。NISA、転職、給与など身近な話から企業型DCへ繋ぎ、制度を生活の言葉に翻訳することが、DCコンサルタントの価値です。


「うちの社員は運用に興味がない」は本当か?

企業型DCについて経営者と話していると、このような言葉を聞くことがあります。

「うちの若い社員は、投資なんて興味がないと思うよ」

「老後はまだ先の話だから、説明しても響かないんじゃないかな」

「運用の話をしても、難しいと思われるだけ」

たしかに、20代や30代の社員にとって、老後はかなり先の話です。

40年後、あるいはそれ以上先の生活について、今から真剣に考えてくださいと言われても、実感を持ちにくい人はいるでしょう。

しかし、説明会で質問が出なかったからといって、社員に関心がないとは限りません。

社員が職場で投資の話をしないからといって、何もしていないとも限りません。

大勢の前では質問しにくい。

何がわからないのか、自分でも整理できていない。

投資の知識がないと思われたくない。

会社に自分の資産状況を知られそうで不安。

そのような理由で、黙っている可能性もあります。

お金は個人的な話題です。

NISAやiDeCoを利用していても、毎月いくら積み立てているのか、どの商品を選んでいるのかを、上司や同僚に積極的に話さないのは自然なことです。

見えていないことと、存在しないことは同じではありません。


実際に社員へ聞くと、社長の予想とは違った

以前、ある社長と企業型DCについて話したときのことです。

その社長は、こう話していました。

「うちの社員は投資に興味がないし、実際にやっている社員もほとんどいないと思うよ」

社員に企業型DCの話をしても、関心を持ってもらえないのではないか。

そう考えていたのです。

ところが、実際に社員へ話を聞いてみると、社長が想像していた状況とは違っていました。

すでにNISAを利用している社員がいました。

iDeCoで積み立てをしている社員もいました。

まだ始めてはいないものの、投資や将来のお金について調べている社員もいました。

社員は投資に無関心だったわけではありません。

将来のお金に不安がないわけでもありませんでした。

関心が、会社から見えていなかったのです。

この出来事からわかるのは、経営者が考える社員像と、実際の社員の関心は、必ずしも一致しないということです。

「うちの社員は興味がない」と結論づける前に、まずは社員の声を聞く必要があります。

NISAやiDeCoを知っているか。

将来のお金について、どのような不安があるか。

会社にどのような支援があればよいと思うか。

そうした対話を始めることで、これまで見えなかった関心が見えてきます。


若い社員が投資に無関心とは限らない

NISAやiDeCo、投資信託、積立投資といった言葉は、以前より身近になっています。

NISA口座数も大きく増えており、資産形成は一部の富裕層や投資経験者だけの話ではなくなっています。

ただし、若い社員の投資への関心は、経営者が想像する形とは違うかもしれません。

株価を毎日確認する。

個別株を売買する。

経済ニュースを欠かさず見る。

それだけが、投資への関心ではありません。

若い社員が知りたいのは、もっと生活に近いことではないでしょうか。

NISAを始めた方がよいのか。

毎月いくらなら無理なく積み立てられるのか。

企業型DCとNISAはどう使い分けるのか。

転職したら企業型DCの資産はどうなるのか。

今使うお金と、将来に回すお金をどう分けるのか。

投資に興味がないのではありません。

関心の表れ方が違うのです。

企業型DCの教育で必要なのは、社員にゼロから関心を持たせることだけではありません。

社員がすでに持っている関心と、会社の制度をつなぐことです。

NISAを利用している社員には、NISAと企業型DCの違いから話す。

iDeCoを利用している社員には、企業型DCとの関係から話す。

まだ何も始めていない社員には、少額でも早く始め、長く続ける意味から話す。

同じ若手社員でも、知識や経験は一人一人違います。

全員を「投資に興味がない若者」と一括りにしないことが、金融教育の出発点です。


「老後のため」だけでは伝わらない、響かない

企業型DCは、老後の資産形成を支える制度です。

そのため、説明するときも、

「老後に備えましょう」

「将来の年金が不安だから、今から積み立てましょう」

「長期・積立・分散が大切です」

という言葉が中心になりがちです。

どれも間違いではありません。

しかし、20代の社員にとって、老後は40年ほど先です。

現在の関心は、毎月の生活費、仕事、転職、結婚、住宅、子育て、趣味などにあるかもしれません。

遠い老後だけを入口にしても、自分の問題として受け止めにくいでしょう。

若い社員に老後の話をしない方がよい、ということではありません。

老後と現在をつなぐ必要があるのです。

例えば、次のように伝えます。

「会社が毎月、あなたの将来のために掛金を出しています」

「転職しても、積み立てた資産は原則として持ち運べます。ただし、必要な手続きがあります」

「NISAと企業型DCは、どちらが優れているという制度ではありません。使う目的や、引き出せる時期が違います」

「若いうちに始めると、長い時間を使って積み立てることができます」

「商品を一度選んで終わりではなく、生活の変化に合わせて見直すこともできます」

「老後の制度です」とだけ言えば、遠い話に聞こえます。

「会社が自分の将来を支えるために用意している仕組みです」と説明すれば、現在の自分とつながって見えます。

同じ制度でも、どの言葉から話すかによって、受け止められ方は変わるのです。


「正しい説明」と、「伝わる説明」は違う

企業型DCには、専門用語が多くあります。

事業主掛金。

運用指図。

資産配分。

元本確保型商品。

投資信託。

ポータビリティー。

制度を正確に理解するためには、必要な言葉です。

しかし、正しい言葉を並べただけでは、社員が行動できるとは限りません。

「資産配分を決めてください」

と言われても、投資経験のない人には、何を決めればよいのかわかりません。

そこで、

「値動きの異なる商品を、どのような割合で組み合わせるかを考えます」

と伝えれば、少しイメージしやすくなります。

「ポータビリティーがあります」

と言うより、

「転職しても、積み立てた資産は原則として持ち運べます。ただし、自分で手続きする必要があります」

と伝えた方が、本人に関係する話になります。

「長期・積立・分散が大切です」

と伝えるだけでなく、

「一度に正解を当てようとするのではなく、時期や商品の種類を分けながら、長く続ける考え方です」

と説明すれば、意味が生活に近づきます。

専門用語を簡単な言葉に置き換えるだけではありません。

なぜ自分に関係するのかまで伝えることが、制度を生活の言葉へ翻訳するということです。

正しい説明と、伝わる説明は同じではありません。

制度を正確に理解した上で、相手の知識や生活に合わせて言葉を変える必要があります。


一度説明しただけでは、社員の関心は見えない

企業型DCを導入した後、

「説明会は一度行いました」

「資料も配りました」

「それでも社員が興味を持ちません」

という話を聞くことがあります。

しかし、一度の説明ですべての社員が理解し、行動できるとは限りません。

新入社員。

若手社員。

投資経験のない社員。

NISAを既に利用している社員。

子育て中の社員。

退職が近い社員。

同じ説明を聞いても、関心を持つ部分は違います。

若手社員には、NISA、転職、毎月の積立との関係から話す。

子育て世代には、教育費と老後資金の両立から話す。

退職が近い社員には、受け取り方や退職後の手続きから話す。

年代や生活状況に合わせて、話の入口を変える必要があります。

企業型DCを実施する企業では、加入者の理解不足や無関心、制度導入後の継続教育の実施方法などが課題として挙げられています。

ただし、ここで「やはり社員は無関心だ」と結論づけるのは早過ぎます。

一度の説明で終わっている。

年齢や投資経験に関係なく、全員に同じ説明をしている。

制度の仕組みは説明しても、生活との接点を示していない。

質問や相談をしやすい場がない。

伝える側にも、見直せることがあります。

金融教育は、知識を一度に詰め込むことではありません。

社員が自分の問題として考えられる入口をつくり、必要な時期に繰り返し学べるようにすることが本当に重要です。


会社に将来を支える仕組みがあることは「安心」につながる

企業型DCは、従業員自身が運用商品を選ぶ制度です。

そのため、「自分で運用しなければならない」という面だけが強く見えることがあります。

実際、私自身も会社員時代はそう思っていました。

しかし、会社が企業型DCを設けることには、別の意味もあります。

会社が掛金を拠出する。

老後に向けて積み立てる仕組みを用意する。

資産形成について学ぶ機会をつくる。

分からないときに相談できる環境を整える。

これは、給与とは別の形で、会社が社員の将来を支援する取り組みです。

社員の生活は、本人だけで完結しているとは限りません。

配偶者がいれば、家計や将来について一緒に考えます。

子どもがいれば、教育費、住宅費、老後資金をどのように準備するかが課題になります。

独身の若い社員も、将来、結婚、住宅取得、子育て、親の介護などを経験する可能性があります。

企業型DCがあるだけで、本人や家族の不安がなくなるわけではありません。

それでも、会社に将来を支える仕組みがあり、お金について学び、相談できる環境があることは、社員や家族にとって安心材料の一つになります。

会社が見ているのは、社員が働いている現在だけではない。

その先の生活まで考えている。

それが伝わることに意味があります。


金融教育は、会社の魅力を伝える要素になる

福利厚生は、用意しただけでは会社の魅力になりません。

求人票に「企業型確定拠出年金あり」と書いても、求職者が意味を理解できなければ、ただの一行で終わります。

「当社は、社員の現在の給与だけでなく、将来の資産形成も支援しています」

「制度を用意するだけでなく、入社後に金融教育や相談の機会も設けています」

このように説明できれば、制度の名称だけでなく、会社の姿勢も伝わります。

企業が資産形成や金融リテラシーに関する教育を提供することを、就職先として前向きに評価する学生がいることも、J-FLECが紹介するアンケートで示されています。

もちろん、この結果だけで、企業型DCを導入すれば採用に成功すると言うことはできません。

給与、仕事内容、職場環境、成長機会など、求職者が見るものは他にもあります。

それでも、先行き不透明な日本社会においては、社員の将来を支える仕組みがあることは、会社の魅力を構成する重要な要素になり得ると私は考えています。

大切なのは、制度があることだけではありません。

その制度の意味を、若い社員や求職者に伝わる言葉で説明できることです。

伝わらなければ、会社が費用と手間をかけて整えた福利厚生も、その価値を十分に発揮できません。


若い社員に伝わる言葉をつくるのが、DCコンサルタント

DCコンサルタントは、企業型DCの制度説明をするだけの人ではありません。

経営者には、なぜ企業型DCを導入するのかを確認します。

退職金制度を整えたいのか。

社員に長く働いて欲しいのか。

採用時の会社の魅力を高めたいのか。

社員の資産形成を支えたいのか。

人事担当者には、社員からどのような質問が出ているのか、何が伝わっていないのかを聞きます。

そして社員には、年代や生活状況に応じた入口から説明します。

若手社員には、老後だけではなく、NISA、転職、給与、結婚、住宅など、現在の関心から話を始めます。

経営者が社員へ届けたい思いを聞き、それを社員に伝わる言葉へ変える。

社員が既に持っている関心を見つけ、会社の制度と結びつける。

制度の説明を、社員が自分の将来について考えるきっかけへ変える。

それは、資料を読み上げるだけではできません。

相手の反応を見ながら言葉を選び、質問を受け止め、必要に応じて説明の順番を変える必要があります。

「なぜわかってくれないのか」と社員を責めるのではなく、

「どのように伝えれば、自分の問題として考えてもらえるか」

を考える。

そこに、DCコンサルタントの存在意義があります。


最後に

企業型DCの制度知識は、もちろん大切です。

しかし、制度を知っているだけでは、企業にも社員にも十分な価値を届けられません。

経営者の思いを聞く。

人事担当者の悩みを整理する。

社員が既に持っている関心を見つける。

そして、制度を相手に伝わる言葉へ変える。

金融教育とは、難しい知識をたくさん教えることではありません。

相手が自分の人生について考え始められるように、最初の入口をつくり、継続的にサポートしていくことです。

若い社員にも届く金融教育を実践したい方にとって、DCコンサルタントは、制度と人をつなぐ一つの選択肢になるのではないでしょうか。