DCコンサルタントの仕事は、企業型DCを導入して終わりではありません。
公的年金や退職金、資産運用、受取方法まで見渡し、企業と加入者を継続的に支える仕事です。ただし、最初から十分な知識や法人との人脈がなくても構いません。必要なのは、加入者本位の志を持ち、学び、発信し、長い時間をかけて成長する姿勢です。
企業型DCを導入したら、仕事は終わりなのか?
企業型DCの導入支援というと、制度の仕組みを説明し、規約を整え、必要な手続きを進め、無事に制度をスタートさせる仕事を思い浮かべる人が多いかもしれません。
もちろん、導入を正しく進めることは大切です。企業ごとに賃金制度や退職金制度、従業員構成は異なります。経営者だけでなく、人事・総務担当者、社会保険労務士、運営管理機関など、多くの関係者との調整も必要になります。制度開始日を迎えるまでにも、相応の知識と実務が求められます。
しかし、企業型DCは、導入した瞬間に従業員の老後資金を増やしてくれる装置ではありません。
従業員が制度の意味を理解し、自分で運用商品を選び、働き方や年齢の変化に応じて見直し、退職時には必要な手続きを行う。そこまで続いて、初めて制度が老後資金づくりの一部として機能します。
立派な制度を会社に置くことと、その制度が従業員に役立つことの間には、思っている以上に距離があります。その距離を埋めるのが、DCコンサルタントの役割ではないでしょうか。
導入は大切です。しかし、導入は目的ではなく、長い支援の入口です。
確定拠出年金法の目的は「導入件数を増やすこと」ではない
これは、私個人の理想論だけではありません。
確定拠出年金法第1条では、確定拠出年金の目的について、高齢期の所得確保に向けた自主的な努力を支援し、公的年金の給付と相まって、国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することとされています。
法律が目指しているのは、企業型DCという制度を設置すること自体ではなく、その先にある高齢期の所得確保です。
また、同法第22条では、事業主に対して、加入者が運用の指図を行うために必要となる基礎的な資料の提供などの措置を、継続的に講ずるよう努めることを定めています。
ここで大切なのは「継続的に」という点です。
導入時の説明会を一度開き、運用商品の解説資料を配って、概要と運用成果を説明して終わり、という制度ではありません。加入者が理解し、判断できるようにするための支援は、制度が続く間、繰り返し必要になります。
さらに、厚生労働省が示す投資教育の内容には、制度や運用商品の説明だけでなく、「確定拠出年金制度を含めた老後の生活設計」が含まれています。
そこでは、現役時代の生活設計、希望する老後の生活水準、公的年金、退職金、保有している金融商品、退職前後の就労見込みなどを踏まえて、老後に不足する資金や運用目標を考えることが示されています。
つまり、公的資料を素直に読んでも、企業型DCは企業型DCだけで考える制度ではないのです。
「資産残高=老後の安心」とは言い切れない
例えば、同じ55歳で、企業型DCに同じ金額を積み立てている二人がいたとします。
一人は、会社から別に退職一時金を受け取る予定があり、預貯金やNISAにも資産を持っています。退職後も数年間働く予定で、企業型DCの資産をすぐに生活費へ充てる必要はありません。
もう一人は、企業型DCが主な退職給付で、退職時には住宅ローンの返済や家族のための支出を予定しています。退職後の収入もまだ見通せていません。
企業型DCの残高と年齢が同じでも、その資産に求める役割はまったく違います。適切と考えられる運用の考え方や、受取時期の選択も同じとは限りません。
また、企業型DCの老齢給付金は、受取方法によって税務上の扱いが異なります。一時金で受け取れば原則として退職所得、年金で受け取れば公的年金等に係る雑所得となります。一時金については、会社からの退職金など、ほかの退職手当等を受け取る時期との関係が、退職所得控除の計算に影響することもあります。
だからといって、DCコンサルタントが一律に「一時金がお得です」「年金で受け取るべきです」と答えるものではありません。税負担だけでなく、生活費、保有資産、今後の収入、本人の希望を整理し、自分で選択できるように判断材料を伝えることが重要です。個別の税務判断が必要であれば、税理士などの専門家につなぐ必要もあります。
加入者が知りたいのは、企業型DCという箱の中だけの正解ではありません。
「自分の退職金と老後資金を、これからどう考えればよいのか」ということです。
DCコンサルタントが見るべきなのは、商品の一覧表だけではなく、その人の退職後の生活です。
制度の概要を知っているだけでは半人前
企業型DCのパンフレットを読んで、掛金や税制上の基本的な特徴を説明できる。それだけでDCコンサルタントとして十分かと聞かれれば、私は十分ではないと思います。
企業型DCの導入と継続支援には、幅広い分野が関係します。
- 企業型DCとiDeCoの制度
- 退職一時金や確定給付企業年金など、ほかの退職給付
- 国民年金、厚生年金などの公的年金
- 掛金、運用、受取時の税制
- 投資信託、預金、保険商品などの特徴とリスク
- 企業の賃金制度、就業規則、給与実務
- 加入者に伝わる投資教育とコミュニケーション
制度は、それぞれ別の教科書に書かれています。しかし、従業員の老後では、全てが一つにつながっています。
公的年金を知らずに、老後の不足額は考えられません。退職金制度を知らずに、企業型DCの位置づけは説明できません。資産運用を知らずに、運用商品の違いは伝えられません。会社の実務を理解しなければ、導入後の管理や従業員への周知で混乱が起きる可能性があります。
その意味では、薄い知識のまま、自分の知っている範囲だけで答えを決めてしまうことは避けなければなりません。
わからないことがあるのは問題ではありません。わからないことに気づかず、調べることも、専門家に確認することもなく話を進めてしまうことが問題なのです。
最初から何でも知っている必要はない
ここまで読むと、「自分には難しそうだ」と感じる人もいるでしょう。
しかし、最初から企業年金、公的年金、税制、資産運用、企業実務のすべてに詳しい人は、ほとんどいません。私自身も、最初から全てを理解していたわけではありません。今でも曖昧な点や制度改正があれば調べますし、専門外のことはその分野の専門家に確認します。
DCコンサルタントに必要なのは、何を聞かれてもその場で即答できることではありません。
知らないことを、知らないままにしないこと。曖昧な記憶で答えをつくらず、公的資料を確認すること。自分の専門領域を超えるときは、それを認めて適切な専門家と連携すること。そして、目の前の企業や加入者にとって何が必要なのかを考え続けることです。
知識の入口は浅くても構いません。しかし、視野まで企業型DCの中に閉じたままではいけません。
志だけで相談に答えられるわけではありません。でも、知識は学べます。経験は積めます。信頼できる専門家との連携も、活動の中で築いていくことができます。
最初から完成されたDCコンサルタントである必要はありません。加入者の老後を中途半端に扱わない。その志が、学び続けるための出発点になります。
法人との人脈がなければ、活動できないのか?
もう一つ、DCコンサルタントに興味を持ちながら、動き出せない理由としてよく聞くのが、「法人の知り合いがいない」という言葉です。
企業型DCは法人が導入する制度ですから、経営者や人事担当者との接点が必要です。すでに法人顧客を多く持っている人の方が、活動を始めやすいのは確かでしょう。
しかし、今、人脈がないことと、これからも人脈ができないことは同じではありません。
正直に告白すると、私は、いわゆる社交的なタイプではありません。内向型です。だから、大勢の人が集まる経営者団体も大の苦手です。
一度は商工会の青年部にも入りましたが、会合には一度も出席しないまま退会しました。今振り返っても、経営者交流の優等生とはとても言えません。
そんな私でも、企業型DCの導入支援はできています。
なぜなら、人との関係をつくる方法は、大勢が集まる会に出席して、たくさんの名刺を交換することだけではないからです。
私は、大人数の場で次々に人と知り合うことは得意ではありません。その一方で、一対一で相手の話を聞き、何度も対話を重ねながら、時間をかけて関係をつくっていくことは比較的得意です。
自分がDCコンサルタントであることを意識し、企業型DCや金融教育、老後資金について発信を続けていると、少しずつ周囲からの見え方が変わります。「企業型DCについて相談できる人」「退職金や老後資金を一緒に考えられる人」として認識されるようになります。
そうした活動のなかで、法人とのパイプを持っている人と知り合い、その方から経営者を紹介していただいたことがあります。
紹介を受けたからといって、すぐに導入が決まったわけではありません。企業型DCの仕組みや導入する意味について、経営者や担当者と対話を続けました。疑問が出れば説明し、検討が止まれば少し待ち、必要になったときにはまた話をする。その時間は1年以上に及び、最終的に導入へ至りました。
一度の営業で決まった案件ではありません。発信を続けたこと、一人との関係を大切にしたこと、その先で紹介をいただいたこと、そして結論を急がずに説明を続けたこと。その積み重ねによって生まれた導入でした。
人脈があるからDCコンサルタントとして活動できるのではありません。DCコンサルタントとして活動し続けるから、少しずつ人とのつながりが生まれるのです。
もちろん、発信を続ければ必ず依頼が来るわけではありません。名刺に肩書きを書いただけで、翌日から経営者が列をつくるほど、世の中は親切にはできていません。
それでも、自分が何者で、誰のどのような課題を支援したいのかを伝えなければ、必要としている人にも見つけてもらえません。
大きな成果を期待し過ぎず、今できる発信や学び、目の前の人との対話をコツコツ続ける。法人とのつながりは、最初から持っているものだけではなく、自分に合った方法で時間をかけて育てていくものでもあります。
「経営者団体が苦手だから向いていない」「法人営業の人脈がないからできない」と、自分で可能性を閉じる必要はありません。大切なのは、誰かの得意なやり方をそのまままねることではなく、自分の強みを生かし、自分なりの信頼を築く方法を見つけることです。
すぐに成果が出ない時間にも意味がある
活動を始めると、どうしても導入件数や契約件数が気になります。目に見える成果が出れば嬉しいですし、出なければ「自分には向いていないのではないか」と考えてしまうこともあります。
しかし、企業の退職金制度や老後資金に関わる仕事は、短期間で信頼関係が完成するものではありません。企業側にも検討の時期があり、経営課題の優先順位があり、社内で合意を形成する時間があります。
こちらが一生懸命だからといって、相手の意思決定を急がせることはできません。
だからこそ、短期的な成果だけで活動の価値を測らないことが大切です。
私のようにブログやSNSの記事を書くために制度を調べる。経営者の質問に答えられず、持ち帰って学び直す。社労士や税理士と話し、自分とは違う視点を知る。投資教育を行い、どこが従業員に伝わりにくいのかを知る。
こうした一つ一つは地味で、その場では導入件数として数えられません。しかし、説明する力、質問を受け止める力、制度を全体の中に位置づける力として、確実に自分の中に残ります。
成果だけを追うと、結果が出ない時間は空白に見えます。一方、成長を目指せば、その時間も次の支援に向けた蓄積になります。
昨日の自分より、少し正確に説明できるようになる。相手の話を少し深く聞けるようになる。自分だけで抱えず、必要な専門家へつなげるようになる。その積み重ねが、後から信頼や仕事につながることがあります。
結果がいつ、どのような形で現れるかはわかりません。それでも、自分で「知識が足りないから無理だ」「法人とのつながりがないから無理だ」と限界を決めてしまえば、そこで可能性は止まります。
長い目で見て、自分自身が成長し続けること。その結果として、企業や加入者に提供できる価値が少しずつ大きくなっていくのだと思います。
総合的なコンサルタントとは、何でも一人で行う人ではない
私は、DCコンサルタントは、退職金と老後資金の総合的なコンサルタントでなければならないと考えています。
ただし、「総合的」という言葉を、「一人で全ての問題を解決する」と受け取る必要はありません。
労務には労務の専門家がいて、税務には税務の専門家がいます。金融商品について個別の推奨や助言を行う場合にも、金融商品取引法等との関係を踏まえ、それぞれの立場や資格に応じた慎重な対応が必要です。
DCコンサルタントに求められるのは、何でも自分で処理することではなく、企業型DCを退職金、公的年金、資産形成、退職後の生活という全体の中に位置づけることです。
そして、自分が対応できることと、他の専門家に確認すべきことを見極め、企業と加入者が適切な判断にたどり着けるように選択肢を整理することです。
広く見る力と、必要な人をつなぐ力。それも総合的なコンサルタントの専門性です。
知識も人脈も、活動しながら育てていく
DCコンサルタントは、企業型DCという制度を会社に導入するだけの仕事ではありません。
導入された制度が従業員に伝わり、老後資金づくりの中で正しく位置づけられ、退職や転職のときにも困らないように支援する。公的年金、退職金、税制、資産運用、働き方まで見渡しながら、企業と加入者に伴走する仕事です。
そのため、制度の表面だけを知っていれば務まる仕事ではありません。学ばなければならないことは多く、制度改正にも追いついていく必要があります。
けれども、最初から全ての知識を持っている必要はありません。最初から多くの法人とのつながりを持っている必要もありません。
必要なのは、加入者本位という志を持ち、わからないことを学び、考えていることを発信し、人との関係を長い時間をかけて育てていくことです。
DCコンサルタントは、企業型DCについて何でも知っている人ではありません。企業型DCの向こう側にある、一人一人の老後まで見ようとする人です。
知識は、学ぶことで増やせます。人とのつながりも、活動することで少しずつ育っていきます。大切なのは、すぐに成果が出るかどうかだけではなく、DCコンサルタントとして成長を続けられるかどうかです。
自分で限界を決めず、目の前の学びと支援を積み重ねていく。その成長の先に、企業や加入者から必要とされる機会が生まれるのだと思います。

