DCコンサルタントの仕事には、すぐに契約や紹介につながらなくても、相手の役に立てる場面があります。
その一つ一つをどう受け止めるか。
私の座右の書であるアダム・グラントの『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』を手がかりに、相手への貢献を大切にしながら、無理なく支援を続けるための姿勢を考えてみます。
「座右の書」から仕事への向き合い方を考える
これまでは、企業型DCや退職金制度や、年金・金融に関するニュースを取り上げることが多かったのですが、今後は、日々の仕事で感じたことや、仕事への向き合い方についても、少しコラムのような形で書いていきたいと思っています。
今回は、その一回目です。
私には、仕事への向き合い方を考える上で、座右の書にしている本があります。
アダム・グラントの『GIVE & TAKE』です。
人との関わり方を、**「ギバー」「マッチャー」「テイカー」**という視点から考える本です。
これらの言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。
企業への制度説明も、従業員からの質問への対応も、その場で目に見える成果になるとは限りません。
時間をかけて説明しても、導入が決まらないことはあります。
相談に答えて、
「よくわかりました。ありがとうございます」
で終わることもあるでしょう。
そんな時間を、自分はどう捉えるのか。
仕事として続ける以上、売上や採算を考える必要はあります。
それでも、契約になったかどうかだけで、その時間の意味を決めてしまってよいのでしょうか。
今回はこの本に触れながら、DCコンサルタントとして大切にしたい姿勢を考えてみたいと思います。
ギバー・マッチャー・テイカーから、自分の仕事を振り返る
『GIVE & TAKE』で紹介される三つの関わり方を、大まかに整理すると次のようになります。
ギバーは、相手から見返りを得ることを条件にせず、役に立とうとする人。
マッチャーは、与えることと受け取ることの釣り合いを大切にする人。
テイカーは、自分が与える以上に受け取ることを優先する人です。
ここでいう**「与える」**には、知識を伝えることや、人を紹介すること、誰かの相談に乗ることも含まれます。
大きな寄付や、特別な自己犠牲だけを指しているわけではありません。
また、本書では、人との関わり方は場面によっても変わり得ると説明されています。
私は、この分類を周りの人に貼るラベルにしたくはないと思っています。
「あの人はテイカーだ」
と判定しても、自分にとってプラスになるとは限らないからです。
むしろ、相談を受けたとき、自分が最初に何を考えているかを振り返るために使いたいと思っています。
「この人は契約してくれそうか」
が先に浮かぶのか。
「この人は何がわからずに困っているのだろうか。どうやったら役に立てるだろうか」
と考えるのか。
仕事の見通しを持つことは必要ですが、そればかりになると、相手の話を聞いているつもりで、頭の中は契約につながる部分を探しているだけかもしれません。
自分はいつでもギバーだ、と言い切るつもりはありません。
だからこそ、日々の対応を振り返るときに、この本の考え方が役立つのだと思います。
「わかった」で終わることが、仕事の成果になる
私自身、企業型DCの個別相談に対応していると、運用商品の話からNISAや保険、ライフプランまで話が広がることがあります。
ただ、すべての相談が、別の契約や新しい仕事につながるわけではありません。
例えば、配分変更とスイッチングの違いを説明する場面を考えてみます。
説明を聞いた方が、自分の加入者サイトで何を確認すればよいかわかり、自分の状況に合う対応を考えられるようになる。
そこで相談が終わったとしても、十分に意味があるはずです。
今すぐ運用商品を変更する必要はないと、ご本人が判断する場合もあるでしょう。
何か手続きをしたことだけが、相談の成果ではありません。
私たちには見慣れた画面でも、初めて見る人にはわからないことがあります。
説明を受けて、
「ここを見ればよかったのか」
と気づく。
その小さな変化は、本人にとっては大きいかもしれません。
『GIVE & TAKE』の考え方を企業型DCの仕事に当てはめるなら、こうした相手の変化に目を向けることから始められると思います。
自分の説明が、相手の判断に役立ったかどうか。
そのことにも、仕事の手応えを感じられるかどうかです。
なお、今回のタイトルでいう**「ありがとうだけで終わる相談」**は、全て無料で相談に応じるという意味ではありません。
契約した支援業務の中で行う相談もあります。
その場で追加の契約を得なくても、支援そのものに価値がある、という話です。
与えるのは、知識と「自分で考えられる余地」
知っていることを惜しまず伝える、と聞くと、たくさん説明することを思い浮かべるかもしれません。
ただ、企業型DCの投資教育では、こちらが話した量と、相手の役に立った量は必ずしも同じではありません。
例えば、運用を始めたばかりの方に、商品の特徴も、市場の見通しも、受取時の注意点も一度に説明したら、かえって何から考えればよいかわからなくなることがあります。
その人が今知りたいのは、もっと手前のことかもしれません。
まずは何に戸惑っているのかを聞き、必要なところから説明する。
資料を渡す場合も、どのページを見ればよいかまで伝える。
それだけで、情報の受け取りやすさは変わります。
また、相手のためを思っていても、
「これにしておけば大丈夫」
と答えを決めてしまえば、自分で考える機会を奪うことになります。
運用期間や家計の余裕、値下がりへの不安など、判断に必要な点を一緒に確認する。
本人が考える時間を取り、わからないことをもう一度聞けるようにする。
私は、こうした対応にも、ギバーの姿勢を生かせると感じています。
相談を受けた人が、次には少し自分で調べられるようになる。
それを喜べることは、金融教育に携わる人の強みになるのではないでしょうか。
一年以上かかった導入から考えること
『GIVE & TAKE』では、人とのつながりを、相手に何を貢献できるかという視点で築く姿勢も取り上げられています。
私は元々会社員だったこともあり、この仕事を始めたとき、中小企業のコネクションは皆無でした。
外向的なタイプでもなく、経営者の集まる場は大の苦手です。
勧められて商工会の青年部に入ったものの、一度も出席せずに退会したこともあります。
その一方で、一対一で話を聞き、時間をかけて関係をつくることは、自分に合っていると感じています。
DCコンサルタントとして発信を続け、そうした関係の中で、法人とのつながりを持つ方から経営者をご紹介いただいたことがあります。
一年以上、制度の説明、疑問点の解消を続け、導入に至ったケースもありました。
この経験を、
「与えていれば最後には契約が返ってくる」
という話にはしたくありません。
見返りを求めていたと捉えられたくないというのもありますが、ここで伝えたいのは、どの説明も導入につながるとは限らないこと、相手にこちらへの借りができるわけでもないということです。
企業には企業の事情があり、検討する時間も必要です。
こちらが説明に時間を使ったからといって、相手が同じ速さで決められるわけではないでしょう。
もし最初から、すぐに導入できるかどうかだけで関わり方を決めていたら、続かなかった関係かもしれません。
目の前の疑問に答え、必要な情報を届ける。
その時間を持てたことには意味があったと感じています。
こうして振り返ると、関係づくりの方法は一つではありません。
人が集まる場で活躍できる人もいれば、私のように一対一の対話や文章を通じて役に立てる人もいます。
自分が続けやすい方法を見つけることも、この仕事では大事だと思います。
ギバーにも、疲れてしまう人がいる
この本で見落としたくないのは、与える人が必ず上手くいく、とはされていない点です。
グラントは、検討した技術者、医学生、営業職などの研究で、ギバーが成果の高い側にも低い側にも見られたと説明しています。
相手を助けることに力を使い過ぎて、自分の仕事に必要な時間や余力を失う場合もあります。
DCコンサルタントの仕事でも、この点は考えておく必要があると思います。
どんな質問にもすぐに答える。
頼まれた資料は全部作る。
夜でも休日でも連絡があれば対応する。
それを続けて自分が疲れ切ってしまえば、説明の準備や、知識を更新する時間が足りなくなります。
本書が扱う
「他者の利益と自分の利益の両方を大切にする」
という考え方は、長く支援するための手がかりになります。
私なら、相談に対応する時間や支援の範囲を予め決めること、準備に時間が必要ならその旨を伝えること、継続的な支援には適切な対価をいただくこととして考えたいです。
専門外のことを無理に引き受けず、適切な人につなぐことも含まれます。
役に立ちたい気持ちが強いほど、どこまでなら責任を持って対応できるかを考える。
自分の余力を守ることは、これから相談に来る人のための準備でもあります。
「5分間の親切」を持っておく
本書で紹介される実践の一つに、短い時間で相手の役に立つ**「5分間の親切」**という考え方があります。
グラントは、本人の負担を抑えながら相手に役立つ貢献を探す例として説明しています。
これを企業型DCの仕事に当てはめるなら、よく受ける質問の説明を一枚にまとめることや、役立つ公的資料を、見るべき場所を付して案内することなどが考えられます。
担当者が従業員から質問されたときに使える、短い説明文を用意しておくのもよさそうです。
もちろん、複雑な相談を5分で片づけるという意味ではありません。
すぐに答えられないことなら、何を確認する必要があるかを伝えるだけでも、相手は次に進みやすくなります。
一人のために調べたことが、別の人への説明にも役立つことがあります。
同じ質問が続けば、自分の資料のわかりにくさに気づくこともあるでしょう。
相手を助けようとしたことが、自分の理解や仕事の進め方をよくしていく。
そういう積み重ねは、日々の仕事の中にあると思います。
ただ、渡す情報は、相手に必要なものかどうかを確かめたいです。
頼まれていない資料を大量に送りつけて、読む負担を増やしてしまっては、親切のつもりが逆効果になります。
「今、この人が一つわかるようになるために、自分に何ができるか」。
そのくらいの問いからであれば、学んでいる途中の人にも始められることがあります。
DCコンサルタントにギバーの姿勢が生きる理由
私は、相手の理解や成長を喜べる人にとって、DCコンサルタントはやりがいを感じられる仕事だと思います。
企業の担当者が、従業員への説明に少し自信を持てるようになる。
加入者が、運用の話を聞いても以前ほど身構えなくなる。
自分の老後について、何を確認すればよいかがわかる。
そうした変化を支えるところに、この仕事の面白さがあります。
これは、DCコンサルタントがギバーに向いていると研究で証明された、という話ではありません。
『GIVE & TAKE』を、自分の経験と重ねて読んだ上での、私の考えです。
また、ギバーの姿勢があれば、知識が足りなくてもよいわけではありません。
相手の役に立ちたいからこそ、調べる。
わからないことは確認する。
説明が伝わらなければ、言い方を考え直す。
その積み重ねによって、気持ちが実際の支援につながっていきます。
最初から多くの人を助けられる必要はありません。
一つ学び、一人にわかりやすく伝える。
そこで出てきた疑問を、また調べる。
続けるうちに、自分が渡せるものも少しずつ増えていくはずです。
契約につながらない相談も、自分を育ててくれる
「ありがとう」だけで終わる相談にも、意味はある。
私はそう思っています。
ただし、その言葉をいただいたことだけで満足せず、相手に何が伝わったのか、何がまだわからないのかも確かめたいところです。
感謝の言葉が、そのまま十分に理解できた証拠になるとは限りません。
お客様の疑問に答えようとして、調べ直す。
うまく伝わらなかったことを、次はどう説明すればよいか考える。
そうした経験は、契約に至らなくても自分の中に残ります。
そこで身についた知識や伝え方が、次のお客様の役に立つこともあります。
相手のために考えた時間が、自分の力にもなっている。
相談の価値は、契約につながったかどうかだけでは測れないのだと思います。
もちろん、仕事として続けるために、契約や売上を振り返ることは必要です。
その一方で、以前は答えられなかった質問に答えられたことや、相手に伝わる説明ができたことにも、目を向けたいと思います。
すぐに大きな成果が出なくても、自分が身につけてきたものまで、なくなるわけではありません。
『GIVE & TAKE』を読みながら、自分の仕事を振り返ると、目の前の人の役に立とうとすることと、自分が成長することは、つながっていると感じます。
日々の相談に丁寧に向き合い、足りないところを学び続ける。
その積み重ねを、DCコンサルタントとしての力にしていきたいと思っています。

