中退共の掛金上限3万円は見直される? 制度が動くとき、中小企業に必要な相談相手

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中退共(中小企業退職金共済)の掛金月額の上限3万円は、平成7年から変わっていません。

厚生労働省の審議会では今、この上限を含めた制度のあり方が議論されています。

ただし、まだ何も決まってはいません。

制度が動きそうなとき、経営者には**「うちの退職金はこのままでいいのか」**という問いが生まれます。

その問いに一緒に向き合える人がいるかどうかで、議論の受け止め方は大きく変わります。


30年以上変わっていない「月3万円」

中退共の見直しを議論しているのは、労働政策審議会の中小企業退職金共済部会です。

今年6月30日に開かれた第93回の部会の議事録(
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75008.html)を読むと、厚生労働省の事務局から、今後の検討の視点としていくつかの論点が示されています。

一つ目が、掛金月額のあり方です。

中退共の掛金月額の上限は3万円で、最後に改正されたのは平成7年です。

事務局の説明では、平成7年から令和7年までの間に賃金月額は約2割上昇しており、掛金の上限が賃金の動きに追いついていない状況が示されました。

ほかにも、掛金を選べる単位を細かくするかどうか、中退共に加入できる事業主の範囲、働き方が多様になる中での被共済者の範囲、他の制度とのポータビリティ、資産運用のあり方などが論点に挙がっています。

事務局からは、12月頃の取りまとめを目指して議論を進める案が示されました。

DCコンサルタントとして目を引かれたのは、委員の発言の中に、企業年金との比較がいくつも出てきたことです。

ある委員は、確定拠出年金の拠出限度額は法律ではなく政令で定められていることに触れ、中退共などの掛金上限も政令に委ねる考え方は妥当だと述べています。

また、DBや企業型DC、iDeCoの間では離転職時の資産の移し替えが拡充されてきた一方で、中退共と企業年金の間には一定の制約が残っていることも指摘されました。

中退共の議論は、企業年金の制度と切り離された話ではないということです。

そして10月1日には第94回の部会が開かれ、**「今後の検討における主な視点」**が引き続き議題になっています。

ここで大切なのは、これはまだ議論の段階だということです。

掛金の上限がいくらになるのか、そもそも引き上げられるのか、いつからなのかは決まっていません。

委員からは上限引き上げの検討に理解を示す意見がある一方で、企業の実務に混乱や負担を招かないよう配慮してほしいという意見も出ています。

「中退共の上限が上がるらしい」

という話だけが先に広がると、経営者が誤解したまま判断してしまうかもしれません。

決まったことと、議論されていることを分けて伝える。

これは、制度が動くときに支援者がまず意識したいことだと思います。


中退共は、中小企業の退職金を支えてきた仕組み

あらためて、中退共の基本を確認しておきます。

中退共は、中小企業が単独では退職金制度を持ちにくいという事情を踏まえてつくられた、国の退職金制度です。

掛金は事業主が全額負担し、損金または必要経費として扱われます。

退職金は中退共から従業員本人に直接支払われ、原則として一時金です。

中退共の案内では、新しく加入する事業主に対し、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を、加入後4か月目から1年間、国が助成するとされています。

第93回の部会では、民間企業の退職一時金の準備方法として、会社が独自に準備する**「社内準備」**が最も多く、それに次いで中退共が多いというデータも紹介されていました。

中退共に加入する事業主が挙げる理由としては、従業員の定着や勤労意欲の向上が上位にあります。

同じ資料では、一般の中退共の予定運用利回りは平成14年から1.0%とされています。

また、掛金を納めた期間の平均は129か月で、おおむね10年程度で推移しているという説明もありました。

平均すると10年ほどの加入期間の中で、中小企業で働く人に退職金を届けてきた制度だと言えます。

一方で、同じ資料では、中退共の掛金の平均月額は令和6年時点で9,772円とされています。

上限は3万円ですが、実際にはそれよりかなり低い金額で運用している会社が多いことがうかがえます。

上限が上がったとしても、すべての会社が掛金を増やすわけではないでしょう。

つまり、見直しの議論で問われているのは、上限の数字だけではないのだと思います。

「自分の会社は、退職金で何を実現したいのか」

という問いが、あらためて経営者に返ってくるということです。


「うちは中退共に入っているから大丈夫」の先にある問い

少し、ある場面を想像してみてください。

従業員20人ほどの会社の社長が、知り合いから中退共の見直しの話を聞いたとします。

その会社は、全員一律で月5,000円の中退共に加入しています。

「上限が上がるかもしれないらしいね。うちも掛金を増やした方がいいのかな。それとも、最近よく聞く企業型DCに切り替えた方がいいのかな」

これは、場面をわかりやすくするために描いた例です。

ただ、制度が動くという話を聞いたとき、経営者がこうした迷いを抱くのは自然なことだと思います。

このとき、すぐに

「増やした方がいいですよ」

「DCの方が有利ですよ」

と答えることもできます。

でも、それでは社長の迷いの根っこには届きません。

本当に確かめたいのは、たとえば次のようなことです。

退職金で一番実現したいのは、若い社員の定着なのか、長く勤めた人の老後の支えなのか。

今の掛金は、何を基準に決めたのか。

退職金規程はあるのか、中退共の退職金とどう関係しているのか。

これから採用したい人材は、どんな年代で、どんな働き方なのか。

退職金にかけられる会社の負担は、今後どのくらいまで考えられるのか。

中退共は、退職金が従業員本人に直接支払われる、管理の手間が少ないといった特徴があります。

企業型DCは、従業員が自分で運用し、原則として60歳以降に受け取る仕組みです。

どちらが優れているかではなく、会社が何を大切にしたいかによって、どの組み合わせが合うのかが変わります。

中退共を続けたまま掛金を見直す会社もあれば、別の仕組みを組み合わせることを検討する会社もあるはずです。

制度の比較表を渡すだけでは、こうした整理はなかなか進みません。

経営者自身もまだ言葉にできていない**「何のための退職金か」**を、質問を重ねながら一緒に見つけていく。

そこに、相談を受ける人の役割があると考えています。


制度が動くとき、隣で一緒に考える人が必要になる

中小企業には、退職金について気軽に相談できる相手がいないことも多いのではないでしょうか。

大企業のように人事部の中に退職給付の専門担当がいるわけではありません。

社長が一人で情報を集め、判断していることも少なくないと思います。

そうした会社にとって、制度が動くタイミングは不安の種にもなりますし、退職金を見直すきっかけにもなります。

DCコンサルタントがそこでできることは、いくつかあると思います。

一つは、情報を整理して伝えることです。

審議会で何が議論されていて、何がまだ決まっていないのか。

経営者が誤解したまま急いで判断しないように、正確に伝えます。

たとえば、

「上限が上がるかどうかは、まだ決まっていません。決まったときに慌てないように、今のうちに御社の退職金の目的を整理しておきませんか」

と声をかけることはできます。

もう一つは、会社の目的を言葉にする手伝いです。

退職金で何を実現したいのかがはっきりすれば、中退共の掛金を見直すのか、企業型DCを検討するのか、今のままでよいのかを、経営者自身が判断できるようになります。

そして、必要に応じて専門家とつなぐことです。

退職金規程の変更や就業規則の見直しは社労士、税務の判断は税理士の領域です。

DCコンサルタントがすべてを一人で抱えるのではなく、全体を整理して道筋を示す。

その役割分担を意識できることも、大切な力だと思います。

正直に書くと、私自身はまだ中退共について相談を受けたことはありません。

それでも、議論の中身を見ていくと、これは**「中退共の話」**で終わるものではないと感じます。

中小企業の退職金全体をどう考えるか、という話につながっているからです。

以前の記事**「企業型DCを導入するだけで、DCコンサルタントは務まりますか?」**(
https://dc-c.org/about-dc-consultant/1577/)でも書いたように、DCコンサルタントの仕事は、企業型DCを導入することだけではありません。

会社の退職金や従業員の老後資金を全体として整理し、続けて支えていくことにあります。

中退共の見直しの議論は、そのことをあらためて教えてくれるテーマだと思います。


DCコンサルタントを目指す方へ

もしこの記事を読んで、**「中小企業の退職金を一緒に考える仕事」**に少しでも興味を持っていただけたなら、うれしく思います。

この仕事は、華やかな提案で一気に契約を取るような仕事ではないと、私は感じています。

私は元々、法人の知り合いがほとんどいませんでした。

経営者団体のような場も超苦手です。

それでも、DCコンサルタントとしての発信を続ける中で、法人とつながりのある方と関係ができ、その方の紹介で経営者と出会うことができました。

そこから1年以上、制度の説明を続けて、ようやく導入に至ったケースもあります。

これは、続ければ必ず成約するという話ではありません。

ただ、中小企業の退職金は、経営者が時間をかけて考えるテーマです。

すぐに結論を出さない相手に、焦らず付き合い続けられることは、この仕事の大切な資質の一つだと思っています。

制度は、これからも動き続けます。

中退共の見直しも、12月の企業型DCやiDeCoの改正も、その一つです。

そのたびに、**「うちはどうすればいいのか」**と迷う経営者がいます。

その隣で一緒に考えられる人が増えれば、中小企業で働く人たちの退職金や老後資金は、もう少し確かなものになっていくのではないでしょうか。


おわりに

中退共の掛金上限3万円は、平成7年から変わっていません。

その見直しが、今まさに議論されています。

ただ、上限の数字がどうなるかと同じくらい大切なのは、それをきっかけに経営者が**「何のための退職金か」**を考え直せるかどうかだと思います。

そのとき、制度を正確に伝え、会社の目的を一緒に言葉にし、必要に応じて専門家につなぐ人がいれば、議論は不安ではなく、前向きな見直しの機会になります。

制度が動くたびに、経営者の隣で一緒に考えられる人でありたい。

私はそう思っています。

同じように感じる方が一人でも増えてくれたら、この記事を書いた意味があると思っています。