2026年10月1日、同一労働同一賃金ガイドラインに「退職手当」の項目が新設されました。
パートや有期雇用の人に退職手当を一律に払わない扱いは、事情によっては不合理とされ得ます。
企業型DCも、もともと加入資格の決め方でこのガイドラインを踏まえるよう求められています。
「パートは対象外」を規約の一行で済ませる時代は終わりました。
その一行の理由を、会社と一緒に言葉にできるのがDCコンサルタントです。
「パートは対象外」。
企業型DCの規約を見ていると、加入者の範囲として、この一行がさらっと書かれていることがあります。
正社員だけが加入者で、パートや契約社員は入らない。
多くの会社で、当たり前のように受け入れられてきた線引きです。
私は、この一行が、これから会社にとって一番説明を求められる一行になると思っています。
10月1日、ガイドラインに「退職手当」が加わった
2026年10月1日、パートタイム・有期雇用労働法の省令と、同一労働同一賃金ガイドラインの改正が施行されました(厚生労働省 同一労働同一賃金特集ページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html))。
大きな変更は二つあります。
まず、パートや有期雇用の人を雇い入れるとき(契約を更新するときも含みます)に、「正社員との待遇の違いについて説明を求めることができる」と明示することが、新たに義務になりました。
これまでも、昇給・退職手当・賞与の有無などは書面で示す必要がありましたが、そこに一項目が加わった形です(厚生労働省 Webマガジン(https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/column/20260803.html))。
そして、ガイドラインに「退職手当」の項目が新しく設けられました。
ガイドラインの見直し案(新旧対照)(https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001598238.pdf)によれば、要旨は次のとおりです。
退職手当には、労務の対価の後払いや功労報償など、さまざまな性質や目的がある。
その性質や目的がパートや有期雇用の人にも当てはまるのに、職務の内容などの違いに応じた「均衡のとれた」退職手当を支給していない。
しかも、その代わりに基本給を高くしているといった事情もない。
そういう場合には、待遇の相違が不合理と認められるものに当たりうる。
もとになっているのは、契約社員の退職金をめぐって争われたメトロコマース事件の最高裁判決(令和2年10月13日)です。
厚生労働省のQ&Aでも、新たに追加された待遇の一つとして退職手当が挙げられています。
勘違いしてはいけないのは、「パートにも正社員と同じ退職金を払え」と書いてあるわけではない、ということです。
求められているのは「均衡」です。
働き方の違いに応じた差であれば認められますし、労使で話し合って基本給に上乗せしているなら、それも考慮されます。
裏を返せば、「パートだから、ゼロ」には、理由が要るということです。
実は、企業型DCはずっと前から問われていた
ここで、DCに関わる人に知っておいてほしいことがあります。
企業型DCの加入資格は、もともと同一労働同一賃金のルールと無関係ではありませんでした。
確定拠出年金の法令解釈通知は、2020年10月1日から、規約で加入者の範囲を決める「一定の資格」について、同一労働同一賃金ガイドラインの「基本的な考え方」を踏まえることを求めています(令和2年9月30日の改正通知(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/000168292.pdf))。
そもそも、企業型DCで加入者を区切れる「一定の資格」は、一定の職種、一定の勤続期間、一定の年齢、加入を希望する者、の4つに限られています。
それ以外の区切り方は、基本的に特定の人への不当に差別的な取扱いになるとされています。
さらに、職種や勤続期間で区切って加入者にならない従業員が出る場合には、その人たちに確定給付企業年金や退職手当制度などを適用し、事業主掛金に代わる相当な措置を講じて、不当に差別的な取扱いにならないようにすることが基本とされています(現行の法令解釈通知(https://www.mhlw.go.jp/content/000677933.pdf))。
つまり、「パートは対象外」という一行は、6年前から本当は理由を問われていたのです。
今回のガイドライン改正で退職手当がはっきり書き込まれ、その問いがいよいよ表に出てきた。
私はそう受け止めています。
「パートに退職金なんて、聞いたことがない」
少し、ある場面を想像してみてください。わかりやすくするために描いた仮の例です。
従業員40人ほどの会社で、企業型DCの見直しの打ち合わせをしています。
社長が言います。
「うちはパートさんが10人くらいいるけど、退職金なんて払ったことないよ。どこもそうでしょう?」
平均点の答えは、こうです。
「ガイドラインの改正で、退職手当についても不合理な待遇差が問題になり得ます。個別の事情によって判断が異なりますので、専門家にご相談ください」。
間違ってはいません。でも、社長は一歩も前に進めません。
私なら、まず質問を返します。
そのパートさんの中に、10年以上働いている人はいますか。
正社員と同じ仕事をしている人はいますか。
将来、正社員になる道はありますか。
時給を決めるときに、退職金がないぶんを上乗せしているという考え方はありますか。
この質問への答えで、話はまったく変わります。
週に数日、補助的な仕事を短期間でお願いしているパートさんと、10年以上、正社員とほぼ同じ仕事をしてきたパートさんを、同じ「パート」でひとくくりにはできません。
ガイドラインが問うているのは、雇用形態の名前ではなく、中身です。
「どこもそうでしょう?」という言葉にも、少し引っかかります。
どこもそうだったのは事実かもしれません。
でも、ガイドラインに退職手当が書き込まれた今、「みんなやっていない」は理由になりません。
問われているのは、よその会社ではなく、御社の線引きの理由です。
選び方は、一つではない
では、会社はどうすればいいのか。ここで、DCコンサルタントが持っている道具が生きてきます。
いちばん素直なのは、パートさんにも企業型DCの門を開くことです。
ただし、企業型DCに入れるのは厚生年金の被保険者だけです。週の労働時間や賃金の条件を満たして社会保険に入っているパートさんなら加入者にできますが、そうでない人は、そもそも対象になりません。
私が面白いと思っているのは、線を引く場所を変えるやり方です。
法令解釈通知は「一定の勤続期間以上」の従業員だけを加入者にすることを認めています。
雇用形態ではなく勤続年数で線を引けば、長く働いてくれた人は、パートであっても制度に入れる。
会社が「長く働いてくれたことに報いたい」と考えているなら、これほど筋の通った線引きはありません。
企業型DCにこだわらない選択肢もあります。
社会保険に入っていないパートさんでも、中退共なら、週の所定労働時間が30時間未満の短時間労働者向けに、月2,000円から4,000円の特例掛金で加入できます。
制度を一つに絞らず、組み合わせて考えるのも手です。
退職金を出さない代わりに、時給や基本給に上乗せするという考え方もあります。
ガイドラインも、労使交渉を経て基本給を高く支給している事情を考慮に入れています。
ただ、「上乗せしているつもり」では通りません。
何をいくら上乗せしているのか、あとから説明できる形で残しておく必要があります。
正直に言えば、ここがいちばん曖昧になりやすいところだと思います。
どれが正解かは、その会社が退職金で何を実現したいのかによって変わります。
長く働いてくれたことに報いたいのか。
採用で選ばれたいのか。
正社員とパートの間の壁を低くしたいのか。
目的がはっきりすれば、選ぶ道具も決まります。
もちろん、就業規則や賃金規程の変更、労使の話し合いは、社会保険労務士の領域です。
DCコンサルタントが一人で抱える話ではありません。
けれど、「退職金の目的」と「企業型DCの規約」をつなげて考えられる人は、意外と少ないのではないでしょうか。
社会保険の加入者は、これから増えていく
この話は、今だけのものではありません。
2025年の年金制度改正法で、パートさんが社会保険に入る範囲は、これからさらに広がっていきます。
厚生労働省の改正法の概要(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001592624.pdf)によると、企業規模の要件は段階的に撤廃され、2027年10月には従業員35人超の会社が対象になります。
その後も、2029年10月に20人超、2032年10月に10人超、2035年10月には10人以下の会社へと広がる予定です。
月額8.8万円以上という賃金の要件も、公布から3年以内に撤廃されることになっています。
社会保険に入るパートさんが増えれば、企業型DCに入れる人も増えます。
そのとき、「パートは対象外」の一行を、何も考えずに残しておけるでしょうか。
中小企業ほど、これから正面から向き合うことになるテーマだと思います。
説明を求められたとき、社長は答えられるか
今回の改正で、私が一番大きいと思っているのは、実は退職手当の項目よりも、雇い入れ時の明示のほうです。
これからパートさんを雇う会社は、「正社員との待遇の違いについて、説明を求めることができます」と書面で伝えることになります。
説明を求められたら、資料を使って口頭で説明するか、説明すべきことを全部書いた資料を渡す必要があります。
つまり、パートさんから**「なぜ私には退職金がないんですか」**と聞かれる場面が、制度として用意されたということです。
そのとき、社長が「昔からそうだから」としか答えられなかったら、どうなるか。
答えは、ガイドラインを読めばわかります。
逆に、「うちの退職金は、長く勤めてくれた人に報いるためのものです。だから勤続5年以上の人は、パートでも企業型DCに入れます」と言える会社は、強いと思います。
それは、採用の場面でもそのまま武器になります。
DCコンサルタントを目指す方へ
企業型DCの仕事というと、正社員の資産形成の話だと思われがちです。
でも、制度の線引きひとつで、誰が老後の備えを持てて、誰が持てないかが決まります。
その線をどこに引くのか。
なぜそこに引くのか。
それを会社と一緒に考え、言葉にして、働く人に説明できる形にする。
これは、商品を売るだけの人にはできない仕事です。
同一労働同一賃金、社会保険の適用拡大、企業型DCの規約。
ばらばらに見える制度の話を、「この会社の退職金はどうあるべきか」という一つの問いにまとめられる人が、これから必要になると私は考えています。
以前の記事「企業型DCを導入するだけで、DCコンサルタントは務まりますか?」でも書いたように、この仕事は制度を入れて終わりではありません。
制度が変わるたびに、その会社の線引きを一緒に見直していく仕事です。
おわりに
「パートは対象外」。
この一行を書いたとき、そこに理由はあったでしょうか。
ガイドラインは、パートにも正社員と同じ退職金を払えとは言っていません。
言っているのは、差があるなら、その理由を説明できるようにしておきなさい、ということです。
その理由を一緒に探し、必要なら線を引き直す。
そこに、DCコンサルタントの出番があります。
規約の一行の向こうには、何年も働いてきた一人ひとりの老後があります。
私自身、まだそこまで想像しきれているとは言えません。
それでも、そうありたいと思いながらこの仕事を続けています。
同じ思いを持つ方と、一緒に取り組んでいけたらうれしいです。

