AIに聞けば、選択制DCのメリットも注意点も、整った形で答えが返ってきます。ただ、それは誰にでも当てはまる「平均点の正解」です。
作業や調べればわかることは、これから全てAIに置き換わっていきます。
平均点しか言えない人は、AIに勝てません。
残るのは、その人の経験と立場からしか出てこない問い、つまり「クセ」です。
選択制DCを例に、DCコンサルタントのクセの価値を考えます。
はっきり書きます。
調べればわかることしか言えない専門家は、これからいらなくなります。
ずいぶん乱暴な言い方だと思われるかもしれません。でも、私は本気でそう考えています。
そして、これは他人事ではなく、DCコンサルタントである私自身への言葉でもあります。
最初に白状しておくと、私もAIを毎日のように使っています。
調べものも、文章の整理も、もうAIなしの仕事には戻れません。だからこそ、怖さも実感しています。
AIは「平均点」を出す天才
AIは、たくさんの情報をもとに、多くの人にとって妥当な答えを返してくれます。
偏りが少なく、抜け漏れも少ない。言ってみれば「平均点の正解」です。
では、AIはどのくらい頭がいいのか。
AIに人間用の知能検査を解かせてIQを推定する試みがあります。
民間の集計サイトTrackingAI(https://www.trackingai.org/IQ)の結果をまとめたこちらの記事(https://binaryverseai.com/ai-iq-test-2025/)によると、2026年9月時点で、公開されている知能検査(Mensa Norway)ではIQ150前後を記録したAIも出ています。人間の平均は100です。
公開問題はAIが学習段階で目にしている可能性があり、非公開の問題では130台にとどまる、という注意書きがついています。
それでも、2025年の半ばにはトップが130台だったことを考えると、この伸び方は異常です。
それほど頭のいいAIが返してくるのが、それでも「平均点」の答えだというのが面白いところです。
誰が聞いても当てはまるように、角を落としてまとめてあるからです。
そして、平均点の正解が誰でもタダで手に入るなら、人間が平均点の正解を言う価値は、ほぼゼロになります。
平均点の人間は、平均点のAIに勝てません。
しかもAIは疲れないし、嫌な顔もしないし、夜中でも答えてくれます。
選択制DCの説明は、AIで十分
具体的に考えてみます。最近よく話題になる「選択制DC」です。
選択制DCは、給与の一部を企業型DCの掛金にするか、給与のまま受け取るかを従業員が選ぶ仕組みです。
掛金を選ぶと給与が減るので、社会保険料が下がる可能性があります。
一方で、保険料の計算に使う標準報酬月額が下がれば、給付も減る可能性があります。
厚生労働省の確定拠出年金Q&A(https://www.mhlw.go.jp/content/000653917.pdf)(No.70)には、保険料負担が軽くなる可能性とあわせて、社会保険・雇用保険の給付が減る可能性が明記されています。
老齢厚生年金、傷病手当金、出産手当金、雇用保険の基本手当などです。
さらに確定拠出年金の法令解釈通知(https://www.mhlw.go.jp/content/000677933.pdf)では、給付への影響も含めて、事業主が従業員に正確な説明をする必要があるとされています。
2020年10月1日から明記された内容です。
大切な事実ですが、このくらいならAIに聞けばおおむね同じように整理してくれるはずです。
厳しいことを言えば、**「社会保険料が下がってお得です」**の一言で終わる説明会なら、AIの方がまだマシかもしれません。
AIは、聞けば注意点まで答えてくれるからです。
「個別の状況によって異なります」は逃げ言葉
ここで、ある場面を想像してみてください。これは、わかりやすくするために描いた仮の例です。
従業員30人ほどの会社で、選択制DCの導入説明会が開かれています。
説明の後、30代の女性社員がこう尋ねます。
「来年、出産を考えているんです。掛金を多めにした方が得ですよね?」
平均点の答えは、こうです。
「社会保険料が下がる可能性がある一方で、出産手当金が減る可能性もあります。個別の状況によって異なります」。
間違ってはいません。でも、私はこの「個別の状況によって異なります」が嫌いです。
役所の窓口や大企業のコールセンターで、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
「ケースバイケースです」「一概には言えません」「詳しくはお近くの窓口へ」。
どれも、後で責任を問われないように逃げ道を残しておく、お決まりのフレーズです。
言っている本人に悪気はないのだと思います。組織の中で働く人にとって、断言しないことは自分を守るための知恵でもあります。
ただ、AIもこのフレーズをよく使います。
逃げ道を残すだけの説明なら、もう人間がやる必要はありません。
彼女が知りたいのは、まさにその「個別の状況」です。
そこに踏み込まずに締めくくるのは、専門家の逃げだと私は思っています。
ここから先は、答えではなく問いの仕事です。そして、どんな問いを立てるかに、その人のクセが出ます。
私なら、数字で答える
では、私ならどう答えるか。仮の数字で書いてみます。
給与30万円の人が、毎月2万円を掛金にしたとします。
標準報酬月額は30万円から28万円に下がるとしましょう。
本人が負担する健康保険と厚生年金の保険料は、ざっくり月に3千円弱、年間で3万円台前半ほど軽くなります。
では出産手当金はどうか。
1日あたりの額は、標準報酬月額を30で割り、その3分の2で計算します。
30万円なら1日6,667円、28万円なら6,220円です。
産前42日と産後56日を合わせた98日分で、差は約4万4千円になります。
実際には支給開始前12か月の平均で計算するので、掛金を始めた時期によって差は変わります。
しかも、産休や育休のあいだは社会保険料が免除されます。
休んでいる期間には、「保険料が下がる」恩恵はそもそもありません。
育児休業給付は雇用保険の賃金をもとに計算されるので、こちらも下がる可能性があります。
来年出産を考えている彼女なら、1年で軽くなる保険料より、産休と育休で減る給付のほうが大きくなるかもしれない。
私なら、まずこの数字を一緒に見ます。
その上で、「掛金をいつ変えられるか、規約を確認しましょう。今は少なめにして、復帰してから増やす手もあります」と言うかもしれません。
それでも彼女が、今から老後のお金を積み立てたいと言うなら、それも答えです。
私が相談でよく使う言葉に**「リスクを取れることと、リスクを取りたいことは違います」**というものがあります。
数字を見た上で選ぶなら、どちらを選んでも彼女の選択です。
私のクセ
なぜ私がここまで数字にこだわるのか。理由は自分のクセにあります。
私は保険の相談も受けていますが、保険料の安さより先に、何に備えるのかを確かめます。
以前、お客様から「別の保険募集人に、お金が増えるからと、月2万円の変額保険を勧められた」と聞いたことがあります。
その場のやりとりを全部知っているわけではありません。ただ、お客様の記憶に残っていたのは「増える」という言葉だけでした。
守るための保険なのに、守る話より先に「増える」が届いていた。
私は、こういう伝え方がどうしても許せないのです。
もう一つは、会社員時代の記憶です。
勤務先で企業型DCが導入されたとき、説明会はありましたが、制度の話と専門用語ばかりで、正直さっぱりわかりませんでした。
結局、自分で必死に調べてなんとか前に進みました。
わからないまま選んだものは、選択とは呼べません。ただ流されただけです。
あの説明会の席に座っていたから、私はそれが身にしみています。
どちらも教科書には載っていない、偏った経験です。
でも、この偏りがあるから、私は「下がります」と聞いた瞬間に「で、何が減るの?」と考えてしまう。
それが、平均点の答えでは届かない場所まで手を伸ばす力になっていると思います。
角を取った説明は、AIの劣化コピー
誤解のないように書いておきます。クセとは、奇抜なことを言うことではありません。
制度の事実は、誰が説明しても同じでなければいけません。
給付が減る可能性を、クセで曲げてはいけない。
事実の部分は、AIと同じくらい正確であるべきです。
事実は「共有するもの」。問いは「持ち寄るもの」です。
事実にクセを出せば、ただの間違いです。
問いからクセを消せば、AIの劣化コピーです。
空気を読んで角を取り、無難にまとめた説明は、もうAIが出しています。
嫌われないように、誰にでも同じことを言う。
それは一見、誠実な専門家に見えます。
でもAI時代には、それが一番替えのきく働き方になってしまうのです。
最高のシューズも、他人には合わない
ただ、クセには落とし穴もあります。
私はランニングをルーティンにしています。
走っていると、シューズにもクセがあることを思い知ります。
自分の足にぴったり合う一足に出会うと、走るのが驚くほど楽になります。
でも、私にとって最高のシューズが、他の人にも合うとは限りません。
足の形も、ペースも、走る目的も違うからです。
合わない人が履けば、足を痛めます。
選択制DCも同じです。
掛金を多めにして社会保険料を下げる選択が、ある人には最高でも、出産や病気で休む可能性がある人には合わないかもしれません。
そして、これは説明する側のクセにも当てはまります。
クセは、問いを立てるための道具です。
自分に合った答えを、相手に無理やり履かせるための道具ではありません。
それをやった瞬間、クセはただの押しつけになります。
淘汰されるのは、AIと同じことしか言えない人
もう一度、はっきり書きます。
作業や、調べればわかることは、これから全てAIに置き換わっていきます。
制度の概要をまとめる。メリットと注意点を一覧にする。資料をつくる。法令やQ&Aから該当箇所を探す。
これらは、IQ150のAIが、疲れもせず、何度でも、一瞬でやってくれます。
ここで人間がAIと張り合っても、勝ち目はありません。
私もこの秋、DCプランナー2級に合格しましたが、正直に言えば、試験に出る知識はAIのほうが詳しいと思います。
資格は入場券にはなっても、それだけでは武器になりません。
では、何が残るのか。
相談に来る人の多くは、自分の困りごとをまだ言葉にできていません。
AIは聞かれたことには完璧に答えます。
でも、何を聞けばいいのかわからない人は、そもそも質問ができません。
冒頭の女性社員が本当に気にしていたのは、「得かどうか」ではなく、「出産前後に家計がどうなるか」だったのかもしれません。
その隠れた不安を、問いを重ねて一緒に言葉にしていく。
そこに、聞き手のクセがそのまま出ます。
淘汰されるのは、AIと同じことしか言えない人です。
DCコンサルタントを目指す方へ
「自分には特別な強みがない」と思っているなら、それは思い込みです。
子育てをしながら働いてきた経験。転職でDCの資産をどうするか迷った経験。保険や住宅ローンで悩んだ経験。人前は苦手でも、一人の話をじっくり聞ける性格。
それは、平均点の答えには絶対に含まれない、あなただけのクセです。
DCの知識は、勉強すれば誰でも身につきます。
AIに聞くこともできます。
でも、クセは、あなたが生きてきた時間の中でしか育ちません。
以前の記事「企業型DCを導入するだけで、DCコンサルタントは務まりますか?」(https://dc-c.org/about-dc-consultant/1577/)でも書いたように、この仕事は制度を入れて終わりではありません。
一人一人が納得して選べるように、隣に座り続ける仕事です。
その「隣」で、あなたのクセが効いてきます。
おわりに
AIは平均点。しかも、とびきり優秀な平均点です。
だからこそ、「来年、出産を考えているんです」という一言に、どんな問いを返せるかが問われます。
事実はAIと分け合う。問いは、クセで立てる。
私は、そういうDCコンサルタントでいたいと思っています。
あなたのクセは何ですか?
すぐに答えられないなら、それを探すところから始めてみてください。
その答えが見つかったとき、DCコンサルタントは、あなたにしかできない仕事になるはずです。

