先週までのブログでは、退職金制度の歴史を何回かに分けてたどってきました。
退職金がどのように生まれ、戦後に広がり、企業年金へと発展し、そして企業型DCという制度につながっていったのか。
その流れを見ていくと、退職金制度は、単なるお金の支払いの仕組みではなく、その時代の働き方や企業経営、社会保障のあり方と深く結びついていることがわかります。
今回は、少し視点を変えてみたいと思います。
制度そのものではなく、その制度を企業や従業員に届ける人についてです。
つまり、DCコンサルタントという仕事について、私なりに考えてみたいと思います。
金融商品の販売で感じる難しさ
金融の世界には、さまざまな仕事があります。
保険を販売する仕事。
投資信託を販売する仕事。
お金を融資する仕事。
どれも、お客様のお金に関わる大切な仕事です。
そして、その中には誠実にお客様と向き合い、本当に役に立つ提案をしている方もたくさんいます。
一方で、金融商品の販売には難しさもあります。
商品を販売することで報酬が発生する。
販売額や契約件数が評価される。
会社から販売目標を求められる。
こうした構造があると、ときにお客様の利益よりも、販売する側の都合が前に出てしまうことがあります。
特に保険は、その傾向が出やすい分野ではないかと感じています。
保険そのものが悪いということではありません。
必要な人にとって、保険はとても大切な備えです。
ただ、商品内容が複雑で、保障内容も特約も多く、手数料の仕組みも外からは見えにくい。
だからこそ、お客様が本当に自分に合った選択をしているのか、判断しにくい場面があります。
私は、保険に関しては、どんな募集人に当たるかで、お客様の選択、場合によってはその後の人生設計まで大きく変わってしまうことがあると思っています。
もちろん、すべての募集人がそうだという話ではありません。
ただ、お客様側に十分な知識がない場合、提案された内容をそのまま受け入れるしかないことも多いのではないでしょうか。
私はかなり面倒な客だった
私はこの仕事をする前、会社員でした。
当時から、人から提案されたものをそのまま鵜呑みにするのがあまり好きではありませんでした。
特に保険のように長く付き合う商品については、提案された内容をその場で受け入れるのではなく、自分が納得いくまで調べてから判断していました。
保障内容。
保険料。
解約返戻金。
特約の必要性。
他社商品との違い。
そもそも本当に必要な保障かどうか。
そういったことを自分なりに調べたうえで、保険ショップに行き、むしろこちらから「この商品で、この内容にしたい」と逆提案して契約していました。
今思えば、募集人からすると、かなりやりにくいお客様だったと思います。
いわゆる募集人泣かせの客だったかもしれません。
ただ、こういう人は極めて少数派だと思います。
多くの人は、日々の仕事や生活で忙しく、金融商品を細かく調べる時間もありません。
専門用語も多く、比較するだけでも大変です。
そのため、基本的には目の前の担当者から説明された内容を信じて契約することが多いのではないでしょうか。
だからこそ、金融の仕事では、提案する側の姿勢がとても大切になります。
お客様に知識がないことを前提に、売りたい商品へ誘導するのか。
それとも、お客様にとって本当に必要なものは何かを一緒に考えるのか。
ここには、大きな違いがあります。
DCコンサルタントは「制度」を届ける仕事
ここに、私がDCコンサルタントという仕事に感じている大きな違いがあります。
DCコンサルタントの仕事は、金融商品を売ることではありません。
企業型DCは、確定拠出年金法という法律に基づく制度です。
その制度を企業に導入し、従業員が老後の資産形成に取り組める環境を整えていく。
それが、DCコンサルタントの大切な役割です。
もちろん、企業型DCの中には運用商品があります。
従業員は、定期預金や保険商品等の元本保証型の商品、投資信託などの中から、自分で運用商品を選びます。
その意味では、金融商品とまったく無関係ではありません。
しかし、DCコンサルタントが本来届けるべきものは、特定の商品ではありません。
届けるべきなのは、制度の価値です。
企業にとっては、退職金制度や福利厚生を整える手段になります。
従業員にとっては、将来に向けて資産形成を進める機会になります。
そして社会全体で見れば、公的年金だけに頼らず、自分の老後に備える仕組みを広げることにもつながります。
企業型DCは、うまく設計され、きちんと運営されれば、企業にも、従業員にも、社会にも意味のある制度です。
だからこそ、私はDCコンサルタントの仕事を、単なる金融商品の販売とは少し違うものだと考えています。
制度を売り込むのではなく、制度がその会社に合うかどうかを考える。
導入して終わりではなく、従業員に届く形に整える。
目先の契約だけではなく、その後の運営や理解促進まで含めて支援する。
そこに、この仕事の面白さがあります。
「三方よし」の仕組みになり得る
企業型DCは、きちんと設計されれば、三方よしの仕組みになり得ます。
まず、お客様である企業にとっては、退職金制度や福利厚生を整える選択肢になります。
人材採用や定着が難しくなる中で、従業員の将来を支える制度を持つことは、企業にとっても意味があります。
次に、企業で働く従業員にとっては、老後資産形成の機会になります。
会社が掛金を拠出し、そのお金を自分の将来のために運用していく。
給与だけではなく、将来の生活を支える仕組みを会社が用意してくれるという意味で、安心感にもつながります。
そして、DCコンサルタントにとっては、社会的に意味のある仕事を通じて、正当な報酬を得る機会になります。
企業の制度づくりを支援し、従業員の将来にも関わる。
その結果として報酬を得ることは、とても健全な仕事のあり方だと思います。
企業にとってよい。
従業員にとってよい。
そして、支援するDCコンサルタントにとってもよい。
もちろん、どんな制度も導入すれば自動的にうまくいくわけではありません。
会社の状況に合っていない設計をすれば、かえって混乱を生むこともあります。
従業員への説明が不十分であれば、制度はあっても活用されません。
だからこそ、DCコンサルタントには責任があります。
制度をただ導入するのではなく、その会社に合う形で整え、従業員に伝わるように支援する必要があります。
信頼を積み上げる人に向いている仕事
DCコンサルタントに向いているのは、短期的に何かを売って成果を出したい人ではないと思います。
むしろ、信頼を少しずつ積み上げていける人です。
お客様の話を丁寧に聞く。
会社の状況を理解する。
制度のメリットだけでなく、注意点もきちんと伝える。
相手にとって本当に必要な選択肢を考える。
こうした姿勢がないと、企業型DCの支援は続きません。
制度は、導入して終わりではありません。
導入後も、従業員への投資教育、制度の見直し、運営状況の確認など、続いていく仕事があります。
つまり、DCコンサルタントの仕事は、一度契約して終わる仕事ではなく、信頼を土台に長く関わっていく仕事です。
ここが、金融商品を単発で販売する仕事との大きな違いだと思います。
お客様との関係を、売る相手として見るのか。
それとも、長く支援していく相手として見るのか。
この違いは、仕事の姿勢に大きく表れます。
お金は“ありがとうのしるし”
私は、お金は“ありがとうのしるし”だと思っています。
これは、私が所属しているNPOで金融教育の講座を行うときにも、子どもたちに伝えていることです。
そして、子どもたちだけでなく、大人にも同じように伝えたいことでもあります。
お金は、ただたくさん集めればよいものではありません。
誰かの役に立つ。
誰かの困りごとを解決する。
誰かに価値を届ける。
その結果として受け取るものが、お金なのだと思います。
もちろん、仕事である以上、報酬を得ることは大切です。
きれいごとだけでは、事業は続きません。
専門性を磨き、時間を使い、責任を持って支援する以上、正当な報酬を受け取ることは当然です。
ただ、その順番を間違えたくないのです。
先にあるべきなのは、売上ではなく、相手にとっての価値です。
お客様の役に立つ。
企業の制度づくりに貢献する。
従業員の将来に少しでも役立つ。
その結果として、信頼が生まれ、報酬につながっていく。
報酬は、売り込んだ結果ではなく、役に立った結果として受け取るもの。
相手からの「ありがとう」が形になったもの。
そう考えられる人にとって、DCコンサルタントという仕事は、とても相性がよいのではないでしょうか。
逆に、短期間で大きく稼ぎたい、相手がよく理解していなくても契約になればよい、という考え方の人には、ハッキリ言って向いていない仕事だと思います。
おわりに
DCコンサルタントは、金融商品を売る仕事ではありません。
確定拠出年金法に基づく制度を、企業に合う形で導入し、従業員に届くように支援する仕事です。
その仕事で大切なのは、売る力だけではありません。
相手のことを考える力。
制度をわかる言葉に置き換える力。
信頼を積み上げる力。
そして、他者貢献の結果として報酬を得ることに喜びを感じられる感覚です。
お金は“ありがとうのしるし”。
そう考えられる人にとって、DCコンサルタントは、とてもやりがいのある仕事だと思います。
制度を売るのではなく、信頼と価値を届ける。
その積み重ねが、企業と従業員の将来を支えることにつながっていくのではないでしょうか。

