顧客に合う制度を選べるか―中小企業支援で問われるDCコンサルタントの姿勢

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「簡単な制度」ではなく「回る制度」に変えていくという視点

このブログではこれまで、DCコンサルタントという仕事の価値を、制度を知っていることそのものではなく、「制度をどう現場で機能させるか」という視点から考えてきました。
制度は、導入しただけでは十分ではありません。
従業員に理解され、必要な場面で活用され、会社の中で無理なく回ってはじめて、その役割を果たします。
我々DCコンサルタント協会も、確定拠出年金(DC)と金融教育の普及・支援活動を通じて、国民の中長期的な資産形成を支えることを目的に掲げています。

その意味で、中小企業に企業型DCを広げていくことを考えるとき、論点は「制度として良いかどうか」だけではないように思います。
むしろ大事なのは、その会社で本当に動くのか、無理なく続くのか、従業員にきちんと届くのか、ということです。
中小企業の現場では、制度の理屈以上に、事務負担、説明体制、費用感、社内理解のばらつきといった現実が、導入の可否を左右します。

今回は、そのことを考える上で非常に示唆的なテーマを取り上げたいと思います。

2026年4月から、簡易型DCで簡素化されていた一部手続きが通常の企業型DCにも広がり、簡易型DCは通常の企業型DCへ統合されました。

ただ、私が今回注目したいのは、「統合された」という事実そのものではありません。
むしろ大事なのは、簡易型DCが広がらなかったという事実です。

厚労省の議論の整理では、簡易型DCは2018年の創設後も利用実績がなく、その背景として設立条件のパッケージ化が中小企業のニーズに合致していなかったことが示されています。

ここに、中小企業支援を考える上で、とても重要なヒントがあるように思います。

簡易型DCは、中小企業向けに“始めやすくした”企業型DCだった

最初に、ここだけはシンプルに整理しておきたいと思います。

簡易型DCは、通常の企業型DCとは別の全く新しい制度というより、中小企業でも始めやすいように、設計や手続きを絞った企業型DCでした。

通常の企業型DCのほうが設計の自由度は高い一方で、決めることも増えます。
それに対して簡易型DCは、加入対象者や掛金設計、手続きの一部をあらかじめ絞ることで、中小企業でも入口に立ちやすくしようとした制度でした。

厚労省資料では、簡易型DCは加入対象者を厚生年金被保険者全員に固定し、掛金を定額とし、運用商品提供数も2本以上35本以下とするなど、通常の企業型DCより設計を絞った仕組みとして整理されています。

つまり、簡易型DCは「中小企業向けに簡単にした企業型DC」だったわけです。

にもかかわらず、広がらなかった。

この事実は、私はかなり重いと思います。

なぜなら、それは中小企業に必要なのが、単に“簡単な制度”ではなかったことを示しているからです。
制度を少し簡素化すれば広がる、というほど話は単純ではなかった。
むしろ中小企業が求めていたのは、「制度として簡単か」よりも、「自社で無理なく回せるか」だったのではないでしょうか。

中小企業が見ているのは、制度そのものより“その後”かもしれない

企業型DCの説明をするとき、どうしても制度の仕組みや税制メリットが前に出やすくなります。
もちろん、それは大切です。

けれど、中小企業の現場では、それだけで話は進みません。

経営者や担当者が本当に気にするのは、もっと具体的なことです。

誰が社内説明をするのか。
従業員から質問が来たらどう対応するのか。
掛金の考え方をどう整理するのか。
入退社があったときの実務はどうなるのか。
導入後の投資教育をどう続けるのか。

こうしたことは、制度の優劣とは別の種類の難しさです。

大企業であれば担当部署を分けられることでも、中小企業では総務や人事の限られた人数でカバーしていくことになります。

そうなると、制度の魅力より先に、「これをうちで回せるのか」「どれだけの手間がかかるのか」という問いが立ち上がります。

私は、この感覚はとても自然だと思っています。

中小企業は、大企業の縮小版ではありません。
同じ制度でも、見え方も、重さも、意思決定のポイントも違います。

だからこそ、中小企業支援で必要なのは、「企業型DCは良い制度です」と説明することだけでは足りないのだと思います。

その会社にとって何が負担になるのか。
どこを整えれば動きやすくなるのか。
どういう順番なら無理なく始められるのか。

そこまで考えて初めて、制度は現実味を持ちます。

導入の前に必要なのは、「続けられる形」の設計である

企業型DCの魅力を語ることはできます。
税制上のメリットもあります。
福利厚生としての意味もあります。
採用や定着にとってプラスになる場面もあるでしょう。

ただ、中小企業にとって本当に大切なのは、「始められるか」よりも「続けられるか」ではないでしょうか。

制度は、導入した瞬間がゴールではありません。

掛金の運用が始まり、従業員が商品を選び、相場が変動し、入退社があり、担当者も変わっていきます。

そういう時間の流れの中で、制度が置き去りにならず、必要なときに見直され、従業員に届き続けるかどうか。
そこまで考えておかないと、制度は“ある”のに“回らない”状態になりやすい。

だからこそ、中小企業への提案で最初から必要なのは、制度そのものの説明だけではなく、「この会社でどう回していくか」の設計です。

どの説明を外してはいけないか。
どこをシンプルにしてもよいか。
誰が窓口になるのか。
初回説明と、その後のフォローをどう分けるのか。

そうした運営の設計図があると、企業型DCは一気に現実的な制度に変わります。

企業型DCだけを唯一の正解にしないことも支援の一部

ここで、もう一つ大切な視点があります。
それは、企業型DCだけを唯一の正解にしないことです。

中小企業支援の現場では、制度の意義を伝えることと同じくらい、「その会社にとって本当に無理のない選択肢は何か」を見極めることが大切です。

従業員数、費用負担、事務体制、導入後の運営負荷。

そうした条件を見たときに、企業型DCよりも他の制度、例えばiDeCoプラスの方が現実的な場合もあります。

iDeCoプラスは、企業年金を実施していない従業員300人以下の中小企業が、iDeCoに加入している従業員の掛金に事業主として上乗せ拠出できる制度です。

企業型DCのように会社として制度を持つのではなく、従業員のiDeCo活用を支える仕組みなので、会社によっては、こちらの方が導入しやすいこともあるでしょう。

実際、私自身も、企業型DCではなくiDeCoプラスの方が良いと提案したことがあります。

その会社は、3人の家族とパート1名の会社でした。

相談内容は「退職金を作りたい」というものでしたが、今後採用を進めて規模を大きくしたいという要望はありませんでした。

それなら、企業型DCを導入すること自体を目的にするのではなく、その会社にとって無理がなく、意向にも合っている仕組みを考えるべきです。

その結果、私はiDeCoプラスのほうが適していると考え、その提案をしました。

会社としても、「それがいいね」と納得していただけました。

ここで大事なのは、iDeCoプラスを提案しても、私自身の利益には一切ならないということです。

それでも、まず優先すべきなのは、相手にとって何が最善かです。

自分にとって都合の良い提案をするのではなく、顧客にとって自然で、無理がなく、続けやすい選択肢を出す。

その姿勢がなければ、本当の意味での支援にはならないと私は考えています。

常に顧客ファーストで考える。
自分の利益を先に置かない。
自己の利益は、相手にとって最善の提案を積み重ねた結果として、後からついてくる。

私は、この感覚を持てる人こそ、DCコンサルタントに向いているのではないかと思っています。

制度を勧めることよりも、相手に合う制度を見極めること。
企業型DCを広げることよりも、顧客にとって意味のある資産形成支援を考えること。

そこに、DCコンサルタントという仕事の誠実さと、長く信頼される理由があるのではないでしょうか。

伴走型の支援があると、制度は「自社には無理」から「これならできる」に変わる

中小企業支援の現場では、制度を紹介しただけで導入が決まることは多くありません。
むしろ、その後に始まる対話の方が大切です。

「うちの規模でも本当にできるのか」
「社員にどう説明したらいいのか」
「掛金をどう決めればよいのか」
「人事の手間はどれくらい増えるのか」

こうした問いに、一つひとつ現実的に答えていく必要があります。

そしてその答えは、会社ごとに違います。

従業員数が同じでも年齢構成が違えば説明の仕方は変わりますし、経営者の考え方が違えば掛金設計の方向性も変わります。

だから中小企業支援では、「制度を知っている人」より、「制度をその会社に合う形へ翻訳できる人」が求められます。

ここでいう翻訳とは、専門用語をやさしく言い換えることだけではありません。

その会社にとって、どこが負担になるかを見立てる。
どこを整えれば動きやすくなるかを見つける。
どんな順番なら無理なく導入できるかを描く。

そうした伴走型の支援があると、制度は「自社には無理」から「これならできる」へ変わっていきます。

私は、この変化を作れるところに、DCコンサルタントの魅力があると思っています。

制度を売ることではなく、制度が根づく条件を整えること。
必要であれば、企業型DC以外の選択肢も含めて考えること。

そこに、この仕事ならではの価値があります。

今回の改正は「制度を中小企業に近づける前向きな一歩」

今回の改正については、前向きに見てよい部分もあります。

厚労省は2026年4月から、簡易型DCで簡素化されていた一部手続きを通常の企業型DCにも適用し、中小事業主を含めたすべての事業主が取り組みやすい設計に改善した上で、簡易型DCを通常の企業型DCへ統合しました。

つまり政策としても、「企業型DC全体を中小企業に近づける」方向へ動いているわけです。

ただし、入口が下がることと、制度が根づくことは同じではありません。

ここを見誤ると、制度は「入れたけれど続かないもの」になってしまいます。

中小企業支援で問われるのは、制度導入の瞬間よりも、その後です。

従業員に理解されるか。
人事が無理なく運営できるか。
必要な教育や見直しが止まらないか。
制度が会社の仕組みの中に、少しずつでも定着していくか。

そのプロセスに向き合うことの方が、実はずっと難しい。

でも、その難しさに向き合えることが、この仕事の価値でもあるのだと思います。

制度を「導入できる制度」にするだけでなく、「続く制度」「届く制度」「根づく制度」にしていく。

その役割を担えるなら、DCコンサルタントという仕事は、中小企業の現場でこれからますます意味を持っていくはずです。

おわりに

中小企業に企業型DCを根づかせるには、制度改正だけでは足りません。
制度の入口が少し下がることは大切です。
けれど本当に必要なのは、その制度がその会社で無理なく回り、従業員に届き、育っていく条件を整えることです。

簡易型DCの利用実績がなかったという事実は、そのことを静かに示しているように思います。
単に制度を簡素化するだけでは、現場は動かなかった。

だから次に必要なのは、制度を“自社で続けられる形”へ変える支援です。

そして、その支援は必ずしも企業型DCに限られるものではありません。

会社の規模や体制、費用負担、将来の方向性によっては、iDeCoプラスのような別の選択肢の方が合う場合もあります。

大切なのは、どの制度を勧めるかではなく、その会社にとって何が最も自然で、続けやすく、意味のある形なのかを考えることです。

だからこそ、これから求められるのは、制度を紹介する人よりも、制度が根づく形を一緒に作れる人ではないでしょうか。

会社ごとの事情を見て、無理のない設計を考え、必要な説明と運営を整えていく。

そのときに、自分の利益になるかどうかよりも、まず相手にとっての最善を考えられること。

その姿勢を持てることも、DCコンサルタントの大切な価値なのだと思います。

もしDCコンサルタントという仕事に関心があるなら、この領域はかなり面白いはずです。

制度の知識を、単なる説明で終わらせない。
現場で動く形に変えていく。
そして必要であれば、自分の利益にならない提案であっても、顧客にとっての最善を選べる。

その姿勢を持てる人こそ、DCコンサルタントに向いているように私は感じています。