限度額が6.2万円に上がっても、恩恵を受けられない会社がある~DB×DC併用企業の経過措置という静かな分岐点~

Gemini Generated Image l58aojl58aojl58a

このブログではこれまで、DCコンサルタントという仕事の価値を、制度を知っていることそのものではなく、「制度をどう現場で機能させるか」という視点から考えてきました。
制度改正のたびに、情報が出ます。厚労省の資料も公開されます。でも、その情報が現場の意思決定に届いているかどうかは、また別の話です。

今回取り上げるのは、2026年12月に施行される拠出限度額の引き上げに伴って、DB(確定給付企業年金)と企業型DCを併用している企業に問われる「経過措置をどうするか」という判断です。

今回のテーマは、地味でマニアックに見えるかもしれません。でも私は、こういったテーマにこそ、DCコンサルタントの真の価値が出ると思っています。

経過措置は「守りたい会社」だけのものではない

少し整理させてください。

2024年12月の制度改正で、DBとDCを併用している企業のDC拠出限度額の考え方が変わりました。

改正前は、DB併用企業のDC拠出上限は一律「月額2.75万円」でした。

改正後は、DBの給付水準を月額換算した「他制度掛金相当額」をDC限度額から差し引く「穴埋め方式」に変わりました。DBの給付水準が高い企業ほど、DCで使える枠が小さくなります。

ここで問題が生じます。DBの給付水準が高い企業では、他制度掛金相当額が2.75万円を超えるケースがあります。そうなると、新制度に移行した瞬間にDCの拠出上限が改正前より下がってしまう。加入者にとっては不利益です。

それを防ぐために設けられたのが経過措置です。

経過措置を適用することで、他制度掛金相当額の大小にかかわらず、これまでどおりDCの拠出上限を「月額2.75万円」で維持することができます。

ここで一つ、大事なことがあります。

この経過措置は、DB×DC併用のすべての企業が選択できます。他制度掛金相当額が2.75万円を下回る企業、つまり新制度に移行するとDC枠が広がる企業も、経過措置を選ぶことができます。

主な目的は「新制度移行でDC枠が縮小してしまう企業を守ること」ですが、適用はすべてのDB×DC併用企業に開かれた選択肢です。そのことを、まず押さえておく必要があります。

「何も変えていないのに、経過措置が終わっている」

ここは、少し丁寧に整理しておきたいと思います。

経過措置は、企業が「やめる」と自ら申請して解除するものではありません。
一定の事由が発生したときに、自動的に終了するものです。

主な終了事由としては次のものが挙げられます。

・DCの事業主掛金の変更(月額2.75万円を超えて拠出する場合を含む)
・DB規約のうち給付に関する事項を変更して掛金の再計算を行う場合
・DBの実施/終了

つまり、何もしなければ経過措置は続きます。

でも、DC掛金の設計を見直したいとき、DBの給付設計を変更するとき、そのタイミングで経過措置は終了します。一度終了した経過措置は、元には戻りません。

だから、制度は静かに動いているように見えても、実は「見直しによって経過措置が終わる可能性がある」という状態が続いています。

DCには直接関係のないDBの給付設計を変えようとしているとき、それがDCの経過措置の終了につながることに、誰も気づいていないというケースは起こりうると思います。

6.2万円に上がっても、“関係ない会社”と“下がる会社”がある

2026年12月、企業型DCの拠出限度額が月5.5万円から月6.2万円に引き上げられます(実際の掛金引き落としへの適用は2027年1月分から)。

ここで、冒頭の問いに戻ります。

経過措置が適用されている企業は、この限度額引き上げの恩恵を受けることができません。経過措置を維持している限り、DC拠出上限は引き続き月2.75万円のままだからです。

ただし、経過措置が終了した場合でも、他制度掛金相当額が3.45万円を超えている企業では、新しいDC上限は現状の2.75万円を下回ります。経過措置を終了すれば必ず枠が広がるわけではなく、自社の他制度掛金相当額の水準によって、結果はまったく異なります。

2026年12月以降の新しい上限は「6.2万円 - 他制度掛金相当額」です。

たとえば、他制度掛金相当額が月2万円の企業では、経過措置終了後のDC上限は6.2万円 - 2万円 = 4.2万円になります。現状の2.75万円と比べると、月1.45万円の差。年間で17.4万円、10年で174万円を非課税で積み立てられるかどうかの差になります。加入者にとって、これは大きな意味を持つと思います。

一方、他制度掛金相当額が月3.45万円を超えている企業では、経過措置が終了するとDC上限は2.75万円を下回ります。6.2万円 - 3.45万円 = 2.75万円が損益分岐点です。他制度掛金相当額がこれを超えると、経過措置終了後のDC上限は現状より低くなります。こういう企業にとっては、経過措置が終了することが加入者に不利益をもたらします。

同じ「経過措置が終了する」という出来事でも、その会社の他制度掛金相当額の水準によって、影響はまったく違う。ここが、このテーマの難しさであり、同時に面白さでもあると思っています。

本質は「知らない」ではなく「気づかない」にある

実際の現場では、こうした判断が次のような形で「詰まる」ことがあります。

まず、「判断すべきことがあると気づいていない」ケース。
経過措置は現在も問題なく動いています。特に何か問題が起きているわけではない。だから「見直しが必要かもしれない」という発想が出てこない。これは怠慢ではなく、自然なことです。制度が静かに動いているときほど、変化の必要性は見えにくい。

次に、「判断すべきだとはわかっているが、何を確認すればいいかがわからない」ケース。
自社の他制度掛金相当額がいくらなのか。
経過措置が現在適用されているかどうか。
今後DCやDBの設計を変える予定があるかどうか。
これらを一人の人事担当者が一から整理するのは、かなりの負担です。

最後に、「整理しようとしたが、DB担当とDC担当が別々で話が進まない」ケース。
DB担当とDC担当が別々に動いていると、「連動している」という認識自体が薄くなります。
DBの給付設計を変えようとしているとき、それがDCの経過措置終了につながり、DC限度額にも影響することに気づかないまま話が進んでしまう。

したがって、「詰まる」根本的な要因は、制度を知らないことよりも、自社の状況に当てはめて考える機会がない、ということではないかと私は思います。だからこそ、ここにDCコンサルタントの出番があり、存在価値があると思っています。

DCコンサルタントに求められるのは「答えを出す力」より「整理できる場をつくる力」

こうした現場の詰まりに対して、DCコンサルタントができることは何か。

私は、「答えを持ってくる」ことよりも、「一緒に整理する」ことの方が大切だと思っています。

経過措置の終了がプラスになるかマイナスになるかは、他制度掛金相当額の水準によって変わります。その会社のDBの設計、今後の制度方針、人事担当者の体制、従業員構成。これらを見ないで「見直すべきです」と言うのは、支援とは言えません。

でも、「一緒に整理しましょう」という入り口を作ることならできます。

規約に経過措置の記載があるかどうかを確認する。
他制度掛金相当額がいくらなのかを確認する。
今後DC掛金やDBの給付設計を変える予定があるかどうかを確認する。
その上で、経過措置が終了した場合にDC限度額がどう変わるかを試算する。

この整理があると、担当者は「どこが詰まっていて、何を判断すればよいか」が見えてきます。
そして、見えると、動けます。

支援の価値は、答えを渡すことではなく、判断できる状態をつくることにある。私は、そう考えています。

「今は動かない」が、最も正しい判断であることもある

ここで、もう一つ大切なことをお伝えしたいと思います。

整理した結果、「今は動かない」という結論になることもあります。
それは、正しい判断です。

他制度掛金相当額が3.45万円を超えている企業では、経過措置が終了するとDC上限が現状より下がります。こういうケースでは、経過措置を維持できるよう制度設計を管理し続けることが、加入者のためになります。

また、DBとDCの連動関係を今後一体的に整理していく予定がある企業では、方針が固まってから判断した方がよい場合もあります。

大事なのは、「知らなかったから何もしなかった」ではなく、「整理した上で今は動かない」と言えることです。

その違いは、加入者にとっても、会社にとっても、大きいと思っています。

おわりに

DB×DC併用企業の経過措置は、制度として目立ちにくいテーマです。
でも、その中には「制度を知っているだけでは届かない」という、DCコンサルタントの仕事の本質がよく表れています。

改正の内容を把握すること。
その改正が自社にとってどういう影響があるか整理すること。
判断できる状態まで支援すること。
そして、必要であれば「今は動かない」という選択も、一緒に考えること。

この一連の伴走が、制度を「あるだけ」から「届くもの」に変えていきます。

これこそが、コンサルティングの本質です。
派手ではありません。でも、そこには長く残る意味があります。

制度改正は、関係者に等しく届くわけではありません。でも、届けることができる人がいれば、確実に変わります。

もしDCコンサルタントという仕事に関心があるなら、こうした「地味だけれど確かな意味のある支援」の面白さを、ぜひ感じてみてほしいと思います。制度の知識を、単なる説明で終わらせない。現場で判断できる形に変えていく。その役割を担えることに、この仕事の価値があるのだと思っています。